『Histoire of Eternto−イストワール オブ エテルノ−』

第2話 巡り合いし歯車

≪登場人物≫

サイアス♂(17歳):自由気ままな冒険者。
アーシア♀(17歳):法国ルミナシア皇女。神託を受けし聖女。
ラキア♀(28歳):法国ルミナシアの大司教。
キリム♀(28歳):皇女付きの近衛騎士の一人。
シエル♂(24歳):聖都シュティレーゼ、聖騎士団騎士団長。
ゲーエン♂(58歳):法国ルミナシア、宰相。
デュラハン♂(27歳):聖都シュティレーゼ、聖騎士団騎士副団長。
ヤシュム不問:黒い猫のような見た目だが、猫より大きい。一部の人以外には見えない仕様。

【HPはこちら】
キャラクター詳細や世界観は此方で確認お願いします。


【役表】

サイアス:
ヤシュム:
アーシア:
ラキア:
キリム:
シエル:
デュラハン:
ゲーエン:



*0*−00−0*0−00−*0*−00−0*0−00−*0*−00−0*0−00−*0*−





ラキア(M):『遥か昔、邪悪な力によって荒れ果てた時代、
        一人の女神がこの地に降り立った。

        女神ヴァレスティアは自らの心を八つの武器に宿し、
        闇と戦うすべを人々に分け与えた。

        人々はそれを神具と呼び、
        女神と供に信仰の対象として崇め、
        その強大な力を行使することで
        アルシャディアに平和をもたらした。

        そして、後に天地戦争と女神の制約として語られるのであった。』



≪屯所の一室/夜≫


サイアス:「はぁ・・・。(深いため息)」

ヤシュム:『どうやら、散々だった見たいだネ。』

サイアス:「あぁっ!! ヤシュム、お前どこ行ってたんだよ!」

ヤシュム:『しーっ。』

サイアス:「やばっ! (一度自分の口を押えて周りの様子を伺いながら)」

ヤシュム:『・・・まったク。五月蠅い奴。』

サイアス:「むっ。」(少し不貞腐れる)

ヤシュム:『夜中に一人で叫んでると、変質者だと思われて捕まるヨ。』

サイアス:「気を付ける。
      ・・・っで。何処行ってたんだ?」

ヤシュム:『古い友人に挨拶して来タ。』

サイアス:「古い友人?」

ヤシュム:『人が生まれる前からのネ。』

サイアス:「あ、そっか精霊は長生きなんだっけ。」

ヤシュム:『そうだヨ。』

サイアス:「そんで、兄貴は見かけた?」

ヤシュム:『見なかっタ。』

サイアス:「え? じゃあ何処に?」

ヤシュム:『そこまでは知らなイ。 自分で調べなヨ。』

サイアス:「・・・分かった。」


ラキア(M):『しかし2000年という長き年月が経ち、
        犇く(ひしめく)邪悪なる力が再び、災厄として訪れようとしていた。』





サイアス:「『Histoire of Eternto(イストワール オブ エテルノ)』第2話 巡り合いし歯車。」





≪会議室≫





ゲーエン:「ラキア殿、先日の爆破事件。 解決の意図は掴めましたか。」

ラキア:「いいえ、恐れながら。」

ゲーエン:「ふむ、その後の聖騎士団の動きはどういった手筈になっています。」

ラキア:「破壊地域及び、周辺地域への厳戒態勢を強いております。
     現状、その後の変化は御座いません。」

ゲーエン:「しかし、何故このような事が。」

ラキア:「惜しくも、幹部数人が抜けている隙を狙って来た様子。」

ゲーエン:「計画的犯行、若しくは愉快犯・・・ですか。」

ラキア:「しかも城下町の厳重警備を意図も簡単にすり抜けています。
     恐らく、計画的犯行である可能性が高いかと。」

ゲーエン:「・・・もし同じような事が二度起きれば
      民からの信用に関わりますよ。」

ラキア:「心得ております。」

ゲーエン:「我がルミナシアは創立当初から中立の立場を保ってきた。
      それが今になって、暗雲を呼び寄せてくるとは・・・。
      事と次第によっては軍事問題になりかねません。」

ラキア:「えぇ、その事なのですが。」

ゲーエン:「ん、何か?」

ラキア:「既に心当たりがあってのお言葉のようですね。」

ゲーエン:「えぇ。仮に計画的犯行だとしても、結界を破壊する程の兵器を
      一介の組織が用意出来るとは到底思えません。」

ラキア:「お察しの通り、
     先ほど修復後の結界を調査してきましたが
     兵器を使った痕跡は在りませんでした。
     他に“何らかの手段を”使ったのではと思われます。」

ゲーエン:「ふむ・・・。
      2000年の間、完全なる領域を保ってきたと言うのに
      それを破壊してしまう程の手段とは一体。」

ラキア:「しかし、一概に向こう側の完璧な犯行とも思えません。」

ゲーエン:「どういうことですか?」

ラキア:「・・・女神の加護が弱まり
     守護獣の力が薄れているものかと。」

ゲーエン:「っ! それでは近い将来
      結界そのものが無くなってしまうという事ですか。」

ラキア:「はい。 闇が広がりつつある今。
     此度の事件が無くとも何れは起こり得る事。 
     ただ、それを促進している者達がいるというだけ。」

ゲーエン:「双方とも、至急対策を思案せねばなりませんね。」

ラキア:「その事で、襲撃事件に直接関わった人物と
     接触する事が出来ましたので
     重要参考人として聖騎士団屯所で身柄を確保しております。」

ゲーエン:「何か有益な情報が聞き出せたのですか?」

ラキア:「はい。屯所付近での攻防戦以前に怪しい人物と接触したとか。」

ゲーエン:「ほう。」

ラキア:「その人物は、“獅子の紋章”を身に着けていたそうです。」

ゲーエン:「・・・っ。」





≪聖騎士団屯所≫



ヤシュム:『わぁああ。』(欠伸)

サイアス:「呑気な奴・・・。」(ジトーとヤシュムを見て)

デュラハン:「何か言いました?」

サイアス:「い、いや! 何でも!」(慌てる)

デュラハン:「そうですか。
       では、確認をさせて頂きますよ。
       サイアス=ロクスウェル、
       王国シルヴェスタ、森林都市ナーシェン地方トリス村出身。
       17歳、男性。職業は冒険者(バックパッカー)
       一応、こちらへの入国は一週間前に済ませてありますね。」

サイアス:「そう、だけど。」

デュラハン:「どうしました? 
       歯切れが悪そうですが、間違いがありましたか。」

サイアス:「そうじゃないけど。
      あのさ、いつまで此処にいれば良いんだ?」

デュラハン:「ん〜、そうですね。幹部からお許しが出ればスグに。
       その前に大事なお話があると思いますが。」

サイアス:「大事な話?」

デュラハン:「事情聴取という奴です。」

サイアス:「えぇ!? またやるのか。」

ヤシュム:『人間ってそういう所面倒くさいよネ。』

デュラハン:「勿論です。ルミナシアの危機に関わる事ですから
       今よりもっと根掘り葉掘りと・・・。」

サイアス:「はぁ〜。俺、これっぽっちも悪い事してないんだけどなぁ。」

デュラハン:「仕方ないですよ。君は重要参考人なんですから。」

サイアス:「重要、ね。俺からしたら完全に巻き込まれただけなんだけど。」

ヤシュム:『普段から行い悪いからじゃなイ?』

サイアス:「うぐっ。」

デュラハン:「はは、ご愁傷様です。」

サイアス:「・・・あのフォルテって奴。見つかったのか?」

デュラハン:「いえ、まだのようです。
       現在調査中ですよ。」

サイアス:「よかった! 次会ったら絶対勝って、ひっ捕らえる!」

デュラハン:「腕に自信がおありのようで。」

サイアス:「そういう訳じゃないけど、強い人には興味あるんだ。
      この前は油断してて一方的にやられただけだから。」

デュラハン:「そういうことでしたか。」

サイアス:「あー、あの人・・・ラングフォード隊長、だっけ。」

デュラハン:「君を散々と連れ回した女性ですね。」

サイアス:「そうそう! その人も強いんだろ?」

デュラハン:「確かに彼女は強いですが。」

サイアス:「その内、手合せとかしてくんないかな!」

デュラハン:「あぁ、それはしない方が利口ですよ。」

サイアス:「なんで?」

デュラハン:「あの人、色々な意味で手加減しませんから
       無事でいられる保障が出来ないので。」(苦笑)

サイアス:「そんなに怖い人だったのか・・・!」

デュラハン:「でも、希望を捨てるにはまだ早いと思います。」

サイアス:「え?」

デュラハン:「君がこの先、今よりもっと強くなる意志があるなら
       手合せを申し込んでもいいんじゃないですか。」

サイアス:「っ! 分かった。 よぉし、強くなるぞ!」

デュラハン:「(微笑)もしその時が来たら、私は見学でもさせて貰いましょうかね。」

サイアス:「勿論! ん、・・・そういえば。」

デュラハン:「どうしました?」

サイアス:「兄さんの名前を聞いてなかったと思って。」

デュラハン:「私ですか。」

サイアス:「そう。」

デュラハン:「そうですね、自己紹介がまだでしたからついでに。
       私はデュラハン=アーヴァンク。聖都シュティレーゼ直属、
       聖騎士団クレスティアシュトルツの副団長を任されています。」

サイアス:「へっ!? えぇええ!!??」

デュラハン:「はは。予想通りの反応ですね。見てて飽きないですよ。」

サイアス:「じゃ、じゃあさ。偉い人なら知ってるだろ!?」

デュラハン:「何をですか?」

サイアス:「その、あの・・・何ていうか詳しい話は出来ないんだけど。
      お、俺さ兄貴を此処に探すつもりであの、だから来たんだ!」(慌てながら)

ヤシュム:『慌てすギ。』

デュラハン:「まぁまぁ、落ち着きなさいって。」(面白そうになだめる)

サイアス:「(深呼吸する)えーっと・・・。
      実は俺、兄貴を探しにシュティレーゼに来たんだ。」

デュラハン:「お兄さん、ですか。」

サイアス:「うん、聖騎士団で働いてる筈なんだけど知ってるかな。
      名前はヨハン=ロクスウェル。」

デュラハン:「それは・・・。」

(ノックをして入ってくる)

キリム:「失礼します。」

デュラハン:「これは、どうなされました?」

キリム:「コンラート様より仰せつかり、迎えに参りました。」

サイアス:「迎え?」

デュラハン:「ご足労、感謝致します。
       丁度こちらも終わった所ですよ。」

キリム:「畏まりました。 では、ロクスウェル殿を此方で預からせて頂きます。」

サイアス:「え? 何処に連れて行かれるんだ?」

デュラハン:「先程伝えた、事情聴取に行って頂くだけなのでご心配なく。」

サイアス:「本当に?」

デュラハン:「えぇ。」

キリム:「では、宜しいですか。」

デュラハン:「お願い致します。」

キリム:「ご案内致しますので、私の後方をついてきて下さい。」

サイアス:「は、はぁ。」

ヤシュム:『早く行くヨ。』

サイアス:「お前も付いてくるのか?」

ヤシュム:『勿論サ。』

デュラハン:「それではサイアスさん、“後程”。」

サイアス:「? あぁ、行ってくる!」





≪大聖堂≫





(アーシアを中心として話し合いがされている)


アーシア:「状況は把握できました。」

ラキア:「以前ローレット殿に同行した調査の結果に加え
     重要参考人による情報が本当だとすれば
     これから忙しくなりますよ。」

シエル:「一先ず、“獅子の紋章”に関しては
     俺とゲーエン殿で出向いて事実確認をすればいい話だが・・・」

ゲーエン:「シエル殿、我々が今すぐに行動を起こすには
      少々危険すぎませんか。」

シエル:「そうか?」

アーシア:「私も同感です。不確定要素が多すぎでは?」

ゲーエン:「それに、相手側の策略の可能性もありますよ。」

シエル:「だが、このままにしておく訳にもいかないだろ。
     書状で確認した所でどちらの証明にもならない。
     結局は相手側の言い分だけを見て判断する事になるんだからな。」

ゲーエン:「書状ですか。
      それも、相手の出方次第では、読み取れる事もありましょう。」

シエル:「ん〜、まぁ取り敢えずこの件は置いとこう。」

ラキア:「分かりました。」

シエル「それで、姫さんの話は本当なのか?」

アーシア:「先日の洗礼でヴァレスティア様から神託があった後(のち)、
      聖騎士団の一部を率いて取り急ぎ、
      神具の所在を確かめに動いたのですが・・・。」

シエル:「持ち出された後だった、と。」

アーシア:「・・・はい。」

ゲーエン:「困った事になりましたな。」

ラキア:「魔物の増加、先日の襲撃事件・・・そして持ち出された神具。」

アーシア:「本来、“選ばれし者”で無ければ
      持ち出す意味も無い代物ですから・・・。」

ゲーエン:「既に歯車は動き出しているという事ですか。」

アーシア:「(頷く)」

ラキア:「実はその事で、
     ローレット殿にお伝えすることが御座いまして。」

シエル:「ん?」

ラキア:「此度の襲撃事件で重要参考人として
     聖騎士団屯所で身柄を預かっていた人物を此処へ呼び寄せています。」

シエル:「なるほど、了解。」

ラキア:「キリム殿、客人をこちらへ。」

キリム:『畏まりました。 どうぞ、お入りください。』

サイアス:『(頷く)』

(聖堂の大きな扉が開くとおっかなびっくりサイアスが入ってくる)

サイアス:「うわぁ・・・すごっ。」(小声で)

ヤシュム:『キョロキョロし過ギ。』

サイアス:「良いだろ、別に。」(小声で)

ラキア:「さぁ、こちらへ。」

サイアス:「は、はい!」

ヤシュム:『緊張してやんノ。』

サイアス:「う、五月蠅いなぁ。」(小声で)

(サイアスが歩いて向かっている最中に話し出す)

ラキア:「名はサイアス=ロクスウェル。 
     先の襲撃事件で“獅子の紋章”を纏った犯人と接触した人物です。」

シエル:「ロクスウェル・・・。」

ゲーエン:「この方が、持ち出された神具に関係を?」

アーシア:「お察しの通りです。」

(近くまで来ると緊張した面持ちでその場に立ち尽くす)

サイアス:「し、失礼・・・します。」

ラキア:「順にご紹介します。
     このお方はルミナシアの宰相、ゲーエン=エルヴィス殿。」

ゲーエン:「以後、お見知り置きを。」

サイアス:「ど、どうも。」

ラキア:「彼はシエル=ローレット。聖都シュティレーゼ直属、
     聖騎士団クレスティアシュトルツの団長です。」

シエル:「宜しくな。」

サイアス:「よ、宜しく、お願いします。」

ラキア:「そして、私は大司教(アークピショップ)を勤めさせて頂いている
     ラキア=コンラートと申します。」

ヤシュム:『一般人じゃ滅多にお目に掛かれない人ばっかだネ。』

ラキア:「それ程珍しいものではありませんよ。」

ヤシュム:『っ!?』

サイアス:「ど、どうした?」

ヤシュム:『・・・。』

ラキア:「そして、此方・・・。」

アーシア:「ラキアさん。私が・・・。」

ラキア:「・・・畏まりました。」(一礼して一歩下がる)

アーシア:「私はアーシア=ミュトス=レゲンダ、
      聖都シュティレーゼの皇女であり
      女神ヴァレスティア様より神託を受けし神子です。」

サイアス:「こ、皇女さ、さま!?」

アーシア:「くすっ。ロクスウェルさん、
      そう固くならず肩の力を抜いてください。」

サイアス:「ど、努力、します。」

アーシア:「それと、黒いネコさん。 あなたのお名前は?」

ヤシュム:『に”ゃっ!!』

サイアス:「こいつが見えるのか?!」

ラキア:「(大きく咳払い)」

サイアス:「み、見えるんです、か?」

アーシア:「えぇ。」

シエル:「(苦笑)」

アーシア:「この場にいるのは、女神の加護がある物達のみ。
      どうか安心して言葉を紡んで下さい。」

ヤシュム:『僕は・・・ヤシュム。 “友情と意志を紡ぎし、精霊”』(警戒しつつ丁寧に)

アーシア:「それでは、あなたの承諾の上で持ち出されたと認識して宜しいですか?」

ヤシュム:『うん。』

アーシア:「ラキアさん例の物を。」

ラキア:「はい。(古びた槍みたいなものを取り出すとアーシアに差し出す)
     こちらです。」

アーシア:「(頷く)」

サイアス:「あ、俺の武器!」

ラキア:「慌てずとも用が終わればお返しします。」

サイアス:「・・・分かった。」

シエル:「それが神具か。」

サイアス:「神具って・・・?」

シエル:「どう見ても錆びれた槍にしか見えないな。」

ゲーエン:「力を失っているようにも感じますね。」

ヤシュム:『失礼な人間。選ばれた人じゃないと本当の姿は見出せないヨ。』

ラキア:「女神の制約の一つ。
     来るべき時以外に力が振るわれぬよう
     神具の最初の持ち主によって、力を封印されています。」

シエル:「なるほど。今のこの状態は、眠ってるようなもんか。」

ラキア:「はい。」

サイアス:「ちょ、ちょっと待ってくれ。 話が全然分かんないんだけど!
      俺は重要参考人として呼ばれてるんだろ? 
      それと武器が何の関係あるんだよ!!!」

(一瞬辺りが静寂に包まれる)

シエル:「くくっ・・・。」(噴き出す寸前)

アーシア:「ふふっ。」

ヤシュム:『只の馬鹿ダ。』

サイアス:「うっ。」

シエル:「ははははっ!」

ラキア:「その口の利き方、すぐにでも叩き直した方が良さそうですね。」

ゲーエン:「ロクスウェル殿、こういった社交場は初めてかな?」

サイアス:「あ、はい。 すいま、せん。」

ゲーエン:「ふむ(困ったような吐息)」

アーシア:「ロクスウェルさんは普段通りにして下さい。
      堅苦しいだけでは疲れてしまうでしょうから。」

ヤシュム:『皇女様に感謝だネ。』

サイアス:「た、助かったぁあ。 有難う。」

アーシア:「いえ。」(微笑)

ラキア:「はぁ・・・。(深いため息)
     それでは話を改めさせて頂きますが、宜しいですか?」

サイアス:「うん。」

ラキア:「先日、アーシア皇女が女神ヴァレスティア様から神託を受けました。
     “アルシャディアの闇が蠢き始めた”と。」

サイアス:「闇がうごめきはじめたって?」

ラキア:「貴方も耳にしている筈です。
     法国ルミナシア全域で魔物が急増化し街や村が壊滅してると。」

サイアス:「そう言えば、商人の兄ちゃんが言ってたな。 
      結界が壊されて大変な事になってるとか。」

シエル:「あぁ、壊せるはずのない結界が破壊され、
     魔物が街を好き勝手出入りしている状態だ。
     それに、今回のシュティレーゼの襲撃も同じような事が言える。」

サイアス:「結界が壊された事?」

シエル:「そうだ。」

ゲーエン:「全ての結界は女神の加護を分け与えられた
      使者である守護獣の力によって形成されているものです。
      そう簡単に壊したり傷を付けれるものはないのですが・・・。」

シエル:「問題は、壊れやすくしたのか。 
     壊れやすくなってたのか。」

ゲーエン:「目撃情報から言えば前者であると言えますが、
      外部の状況からして後者の線も捨てきれないのが現実ですね。」

ラキア:「その全ての異常が、いずれ来る災厄の前兆では無いかと。
     神託こそが、我々の過去であり、現在、未来でもあります。」

アーシア:「それに、古来から闇は強大で恐れられて来ているものです。
      もし、このままにしておけば天地戦争のような悲劇が
      再び訪れるかもしれません。」

ヤシュム:『もう、動き始めてるんじゃないかナ。』

ラキア:「やはり、そうなのですか。」

サイアス:「でも、どうするんだ?
      アルシャディアが危険かもしれないのに
      物語に出てくるような伝説の英雄も、凄い力もないんだろ。」

ラキア:「女神の心、希望の光を解放するんです。」

ゲーエン:「天地戦争の時に交わされたと言う女神の制約ですね。」

ラキア:「はい。
    “アルシャディアに危機が訪れし時、
     我が紡ぎし唄と共に神体を求めよ。
     さすれば、再び恩恵と繁栄を得られるであろう”」

アーシア:「そして。この槍こそが、紡ぎし唄と共にある神具の一つ。聖槍イーリオス。
      最初の持ち主である英雄と同じ名で呼称されています。」

サイアス:「えっ!?」

アーシア:「残りの7つの神具も実際に現存しています。
      それを集め、力を解放することが私たちの目的です。」

シエル:「それが現状を打破出来る唯一の手段、か。」

ゲーエン:「しかし、我々が認知している神具は
      聖槍イーリオスと各国に保管されている3本のみ。」

シエル:「残りの4本は行方しれず、か。」

ゲーエン:「伝承によれば、紡ぎし唄に選ばれし者のみが
      その身に神具を纏う事が許されれている筈、
      どうやって見つけ出すおつもりですか?」

ラキア:「容易いことです。」

シエル:「は?」

サイアス:「また難しい話になってきた・・・。」

アーシア:「その為にロクスウェルさんに来て頂いたんです。」

サイアス:「俺?」

ラキア:「“紡ぎし唄” 彼らと共に歩むものこそ選ばれし者たちなのです。」

ゲーエン:「それが、彼だと仰るんですか。」

ラキア:「はい。“紡ぎし唄”の近くに神具がある事は
     ロクスウェル殿とヤシュム殿の存在によって確証されました。
     そして、“紡ぎし唄”によって選定されている、という事も。」

シエル:「だが、アルシャディア中から
     たった7人を探す方法なんてあるのか・・・。」

ゲーエン:「最良な方法が見つからない限り、
      簡単にはいかないでしょうね。」

ラキア:「・・・もう一つ、絞り込む方法があります。
     もっとも、確信的な話ではないのですが。」

ゲーエン:「それでも構いません。聞かせて下さい。」

ラキア:「伝説の英雄たちと最も縁のある人物が選ばれているのでは、と。」

ヤシュム:『・・・・。』

サイアス:「?」

ラキア:「貴方が居たトリス村は、国が違えどシュティレーゼと深縁の場所です。
     それに、ロクスウェル殿はイーリオスと同じカノナスの民の末裔。
     的外れな話では無いと思うのですがどうでしょうか。 ヤシュム殿。」

ヤシュム:『僕に聞いても答えは返ってこないヨ。』

サイアス:「カノナス・・・?」

ゲーエン:「あの偉大な竜と最も信仰が強いといわれた一族の末裔が・・・。」

サイアス:「俺ってそんなに凄い一族なんだ。 初めて知った。」

ヤシュム:『だって教えてないんだもん。 当り前でショ。』

サイアス:「お前は、内緒が多すぎなんだって。」

ヤシュム:『ふんっ。』

アーシア:「ヤシュムさんが話せないのは理由があるんですよ。」

サイアス:「理由?」

ラキア:「“運命の鎖”
     得過ぎる知識は世を亡ぼす、
     ヴァレスティア様から人への戒めが存在します。」

サイアス:「へぇ。」

ゲーエン:「もし、英雄たちと縁のある人物が
      選ばれる傾向があるのだとすれば
      各国に散らばる一族の方たちに接触を試みるのも一つの手段。」

ラキア:「それに神具の近くには“紡ぎし唄”もいる筈です。 
     闇雲に探すよりは十分な手掛かりになるかと。」

シエル:「って事は・・・。
          国のお偉いさんを当たれば一石二鳥って事か。」

ラキア:「口実、という訳でも在りませんが、
     襲撃事件に関しても表沙汰にする事なく詮索は出来ますから
     タイミングとしても丁度良いでしょう。」

ゲーエン:「どうにせよ、アルシャディアの危機は変わりません。
      一度各国との話し合いの場を設けるべきだとは思いますね。」

ラキア:「はい。近々、各国の幹部に召集をかけ議会の場を作ろうと思います。」

ゲーエン:「分かりました。教皇様への伝達は私からしておきましょう。」

ラキア:「お願い致します。」

シエル:「こりゃ、忙しくなるな。
     暫くの間はギルドに協力してもらうしか無いか。」

ラキア:「それが得策かと。聖騎士団の過半数が遠征に出ていますから
     事実上の人員不足は否めません。」

サイアス:「それで・・・俺はどうしたら?」

アーシア:「ロクスウェルさん。」

サイアス:「ん?」
      
アーシア:「女神ヴァレスティア様に選ばれし者と見込んで、お願いがあります。」

サイアス:「へっ?」

アーシア:「神具と共に私達を、アルシャディアを救って頂けませんか。」

サイアス:「俺に出来ることってあるのかな。」

ラキア:「勿論です。 やって頂きたいことは山のようにありますので。
     承諾頂けるようでしたら直ぐにでも用意致します。」

サイアス:「ひっ!?」

ゲーエン:「ですが議会が終わるまで、
      暫くの間は聖騎士団で預かって頂く事になりますね。」

シエル:「それなら任せて下さい。 取って置きの世話係がいるんで。」

ゲーエン:「それは助かります。」

サイアス:「ヤシュム、どうしよう・・・。」

ヤシュム:『自分で決めてヨ。』

サイアス:「(少し悩んで)・・・分った。 
      出来る限りの事は手伝わせてもらうよ。」

アーシア:「っ! 有難うございます!」

サイアス:「でさ、その代わりって訳じゃないんだけど。
      一つ、・・・教えて欲しいことがあるんだ。」

アーシア:「はい、何でしょう。」

サイアス:「俺の兄貴が聖都に居る筈なんだけど、知らないかな。」





ヤシュム(M):『女神の恩恵の中で繁栄と成長を続ける人々は、
         信仰と崇めつつ、いつしかそれが己の生の全て、執着へと変わっていく。
         それは時として人々に対する脅威にも成り得る。
         そして、その定められた運命に・・・誰も抗えない。』


ラキア:「次回『Histoire of Eternto(イストワール オブ エテルノ)』第3話 休息の行方」










もどる