『Histoire of Eternto−イストワール オブ エテルノ−』 第12話 疾風に勁草を知る ≪登場人物≫ エーレ♂(26歳):自由と冒険をこよなく愛する弓使い。 ツェッカ♀:小さな妖精。 ユーリス♀(16歳):旅の僧侶。 シーラ♂(32歳):気の良い行商人のお兄さん。 モラド(不問)(15歳):少し風変わりな少年。 黒騎士:漆黒の甲冑を纏った人物。正体は不明。 【役表】 エーレ: ツェッカ: モラド: ユーリス: シーラ: 村人: 黒騎士: 町人: *0*−00−0*0−00−*0*−00−0*0−00−*0*−00−0*0−00−*0*− ≪とある小さな村≫ (小高い崖の上から見下ろす二人の姿) モラド:「ねぇ、まだ〜? 僕お腹空いちゃった。」 黒騎士:「・・・もう暫くの辛抱だ。」 モラド:「そう言って小一時間は経つんだけど、そろそろ我慢の限界。」 黒騎士:「お前はもう少し我慢を覚えた方がよさそうだな。」 モラド:「えぇ〜。(ふてくされる) 僕、限界超えると制御効かなくなるから ・・・どうなっても知らないよ?」(微笑) 黒騎士:「・・・。」 モラド:「所で、何を待ってるの?」 黒騎士:「知る必要はない。」 モラド:「冷たいんだぁ〜! 僕そういうの嫌い。」 黒騎士:「・・・どう思おうがお前の勝手だ。 我々は“仲間”では無いだろう。」 モラド:「ふふっ、そうだった。 それじゃぁ、君もいつ狙われるか分からないね。」(微笑) 黒騎士:「肝に銘じておこう。」 (先に歩き始める) モラド:「え、ちょっと! どこ行くの?」 黒騎士:「始めるぞ。」 モラド:「やったぁ。 どんなご馳走が待ってるんだろう! (暫く間を置いて笑顔のまま) 夜道には気を付けて。」 シーラ:「『Histoire of Eternto(イストワール オブ エテルノ)』 第12話 疾風に勁草を知る」 ≪共和国ランガルト・とある小さな港町≫ エーレ:「ふぅ。やっとついたな。」 ツェッカ:『へぇ〜! ここが、共和国ランガルト? なんだか殺風景な所。』 エーレ:「まだ国の端の方だぞ?(微笑) 賑やかな首都が見えるのは、まだまだ先だ。」 ツェッカ:『あ、そっか。 でも、初めての土地ってなんだかわくわくするね!』 エーレ:「そうだな。 まぁ、何にしても準備はしっかりして行かないと。 慣れない土地じゃ何が起きるか分からないし。」 ツェッカ:『分かったわ!』 エーレ:「んじゃ、まずは足の確保を・・・」 (偶然通りかかった町人に声を掛ける) エーレ:「あぁ、すいません。」 町人:「ん?」 エーレ:「首都フラーテルに行きたいんだけど、 馬車って何処で借りれるかな。」 町人:「おっと、 残念だったね。」(苦笑) エーレ:「?」 町人:「さっきフラーテル行きの便は全部出ちまったよ。」 エーレ:「えっ・・・。」 町人:「こんな小さな港町だろ? 人の行き交いも少ないもんで三日に一度。 必要最低限しか動かないのさ。」 エーレ:「って事は当分の間、足は無いのか。」 町人:「そういう事になるな。」 エーレ:「ん〜・・・。この町からだと、どれくらいの距離になる?」 町人:「まさか、歩きで行く気じゃないだろうな?」 エーレ:「可能なら。」 町人:「駄目駄目、やめといた方が良い。 人の足じゃ一週間は掛かる。 それに、外は魔物が出るから危険だぞ。」 ツェッカ:『一週間も掛かるのっ!?』 エーレ:「そっかぁ。 困ったな。」 町人:「急ぎの旅かい?」 エーレ:「いや、そういう訳でもないんだけど。」 (後ろからもう一人に声を掛けられる) シーラ:「何かあったのか?」 エーレ:「ん?」 町人:「おぉ、丁度良かった。」 シーラ:「どうした?」 町人:「兄ちゃん、行商人だったよな。 首都フラーテルまで行く予定は?」 ツェッカ:『行商人! これはラッキーな予感。』 シーラ:「あぁ、それなら次の目的地だが・・・ (二人の様子を見て) ・・・成る程。馬車が行っちまって困ってるんだろ。」 エーレ:「まさにその通り。」 シーラ:「ははっ! だったら俺の馬車に乗ってけよ。」 エーレ:「そんな簡単にOKだして良いのか?」 シーラ:「勿論だ。 “旅は道連れ世は情け”って言うだろ。 遠慮するな!」(満面の笑み) エーレ:「っ! 恩に着る!」 ツェッカ:『わーい! やったぁああ!』 町人:「何とかなって良かったな。 それじゃ兄ちゃん、後は任せたぞ。」 シーラ:「あぁ。」 エーレ:「助かった。」 ツェッカ:『ありがとう!』 町人:「良い旅を!」 (おじさんを三人で見送る) シーラ:「そうだ。一人先客がいるんだが大丈夫だったか?」 エーレ:「こっちは乗せてもらう身だからその辺の気遣いは無用だ。」 シーラ:「そりゃ、助かる。 俺は行商人のシーラだ。 お前さんは?」 エーレ:「俺はエーレ。しがない旅人だ。」 シーラ:「お嬢ちゃんは?」 ツェッカ:『わ、私!?』 シーラ:「あぁ。」(微笑) ツェッカ:『つぇ・・・ツェッカ。』(ボソっと恥ずかしそうに) シーラ:「よろしくな。」(片手を差し出す) エーレ:「こちらこそ。 ・・・?」 (笑顔で握手を交わすが何か違和感を感じる) ツェッカ:『どうしたの?』 エーレ:「いや・・・。」 シーラ:「そういや、エーレ。」 エーレ:「ん?」 シーラ:「もう旅支度は済ませてあるのか?」 エーレ:「いや、まだだ。」 シーラ:「もし必要なものがあるなら俺の所でどうだ。 大体のモノは揃ってるぞ。」 エーレ:「んじゃ遠慮なく。」 シーラ:「毎度♪」 ツェッカ:『商人だもん、そこはちゃんと商売しないと。』 シーラ:「分かってるね〜!」 ツェッカ:『ふふふ。』 シーラ:「それじゃ、俺に着いて来てくれ。」 エーレ:「了解。」 (シーラが行くのを見計らって) ツェッカ:『私に気付く人って中々居ないから吃驚しちゃった。』 エーレ:「そうだな。 (シーラの後ろ姿を見て) 何にしても、幸先見込めるぞ。」 ツェッカ:『本当ね、これも女神様の導きかしら!』 (遠くからシーラの声) シーラ:「おーい! こっちだ!」 エーレ:「あぁ、すぐ行く! ツェッカ、行こう。」 ツェッカ:『うん!』 (シーラの元へ) エーレ:「すまない、遅れた!」 シーラ:「お、来た来た。 こいつに乗ってくれ。」 ツェッカ:『わぁ、大きな馬車!』 シーラ:「この子が例の同席者だ。」 ユーリス:「・・・どうも。」 エーレ:「途中まで一緒だってな。 よろしく。」 ユーリス:「・・・うん。」 エーレ:「隣、良いか?」 ユーリス:「えぇ。」 (すすっとエーレが座れるように移動する) エーレ:「サンキュ。」 シーラ:「よし、それじゃ出発だ!」 ≪馬車で移動中≫ シーラ:「そういやぁ、エーレ達は何処から来たんだ?」 エーレ:「あぁ、地名も知られてないような遠い国から。」 シーラ:「へぇ。二ヶ月前くらいに聖都シュティレーゼまで 似たようなペアを送った事があるんだが知り合いか?」 ツェッカ:『似たような?』 シーラ:「確か、人の言葉を喋る黒い猫を連れてたな。」 ツェッカ:『黒猫・・・。』 エーレ:「ツェッカ、知り合いか?」 ツェッカ:『私の記憶が正しければ、 聖槍イーリオスの紡ぎし唄、ヤシュムだと思うわ。』 ユーリス:「・・・。」(聞き耳立ててる) エーレ:「・・・(少し考える仕草) なぁ、シーラ。」 シーラ:「ん、どうした。」 エーレ:「人間の方はどんな奴だった?」 シーラ:「冒険者(バックパッカー)って言ってたな。」 エーレ:「へぇ、どんな得物を持ってた?」 シーラ:「どうだったかな。 長物だったような気がしたが。」 ツェッカ:『と言うことは、 ヤシュムは選ばれし者を選定し終えてるって事になるわね。』 シーラ:「選ばれし者? 一体何の話だ。」 エーレ:「悪い、何でもない。 多分俺達も知らない奴だ。」 シーラ:「そうか。」 エーレ:「実際に会って見ない限り“仲間”かどうかは断定できないな。 ・・・けど、少なくとも動き出してるのは確かだ。」 ツェッカ:『そうね。』 ユーリス:「・・・ちょっと。 お兄さん。」 エーレ:「どうした?」 ユーリス:「同席者が私だから良かったものの、 公の場でそういう話は避けた方が良いよ。 何処で誰が聞いてるか分からないんだから。」 エーレ:「お?」 ユーリス:「それと、この妖精も。」 ツェッカ:『わ、私?』 ユーリス:「この子の存在は、見えてる人には凄く珍しいモノだし 周囲には気をつけた方が良いんじゃないかな。 いくら平和ボケしてる世の中だからって 悪い事考えてる人間なんていくらでもいるんだよ。」 ツェッカ:『ふえっ!?』 ユーリス:「お兄さんは、見えてない人からすれば、 独り言が激しい変人で済むけど・・・」 エーレ:「変人・・・!?」 ツェッカ:『ちょ、ちょっと!』 ユーリス:「私は貴女の為に言ってるの。 もっと警戒心を持ってくれる?」 ツェッカ:『は、はいっ!』 エーレ:「・・・(少し呆気に取られて) 確かにお嬢さんの言うとおりだ。」 ユーリス:「ユーリス。」 エーレ:「へ?」 ユーリス:「私の名前。 “お嬢さん”なんて呼ばないで。」 エーレ:「分かった。」(苦笑) ユーリス:「ねぇ・・・」 (遠くの方からかすかな爆風と地震で馬が嘶く) シーラ:「おっと!」 エーレ:「うわっ。」 ユーリス:「っ!!」 シーラ:「どうどうどう。よしよし、いい子だ。」(馬を宥める) ツェッカ:『凄い強い風、一体何があったの?』 エーレ:「今のは?」 シーラ:「どうやらこの先で何かあったみたいだな。」 ユーリス:「シーラさん、この先に向かって!」 シーラ:「どうするつもりなんだ?」 ユーリス:「嫌な予感がするの。 お願い。」 エーレ:「・・・。」 シーラ:「了解。 ちゃんと捕まってろよ!」 エーレ:「ツェッカ、暫く姿を隠しててくれないか。」 ツェッカ:『わ、分かった!』 エーレ:「俺の傍から離れるなよ。」 ツェッカ:『うん!』 シーラ:「行くぞ、はぁっ!」 (馬に鞭を入れて走らせる) ≪馬車を岩陰に隠し村の近くまで移動≫ シーラ:「こりゃ・・・一体。」 エーレ:「結界が壊されてる。 さっきの衝撃はこれが原因・・・」 ユーリス:「まさか・・・っ!!」 (走って村の中に入ってしまう) エーレ:「っ! ユーリス!」 シーラ:「行っちまったな。どうするんだ?」 エーレ:「追いかける。 シーラは此処で待機していてくれ、 身の危険を感じたら俺たちを置いて逃げてくれても構わない。」 シーラ:「本気か?」 エーレ:「緊急事態なら致し方ない。 命あってのものだろ?」 シーラ:「・・・そうだが。」 エーレ:「行ってくる。」 シーラ:「あっ、おい!」 (エーレを見送る) シーラ:「はぁ(深い溜息) こりゃ・・・参ったな。」 ≪崩壊した村の中≫ (走りながら村の様子を伺っている。) ユーリス:「はぁ、はぁ。」 モラド:「さぁ、追いかけっこはもう終わりだ。」 ユーリス:「っ!」 (人の声に反応し慌てて物陰に隠れ様子を見る) 村人:「ひ・・・ひぃっ!」 モラド:「いっただきまぁす♪」 村人:「ぎゃぁあああああああああああああああっ!」 (何かに吸い込まれるように一瞬のうちに跡形も無く消えてしまう) モラド:「全然美味しくないや。(手についた血を舐めながら)」 黒騎士:「相も変わらず豪快だな。」 モラド:「食べて見る?」 黒騎士:「遠慮しておこう。」 モラド:「残念。 ねぇ、全然お腹いっぱいにならないんだけど。 数だけ食べても質が悪ければ無いのと一緒だよ。」 (後ろから静かに声を掛ける) エーレ:「様子はどうだ。」(小声) ユーリス:「あっ・・・」(小声) エーレ:「しっ!」(小声) ユーリス:「っ。」(慌てて自分の口を押さえる) エーレ:「よし、良い子だ。 一体何があった?」(小声) ユーリス:「あの子供が村人を・・・。 “食べた”見たい。」(小声) エーレ:「っ、どうやって?」(小声) ユーリス:「(首を横に振る)見る余裕が無かった。」(小声) エーレ:「なるほど・・・。 さっきから人の気配がしないのはそのせいか。 良いか、ユーリス。 すぐに逃げれるように準備しといてくれ。」(小声) ユーリス:「待ってよ、“アレ”を見逃すの?」(小声) エーレ:「奴等が何者なのかも分からないのに 無闇に飛び出すのは利口とは言えない。 だから、状況を見極めて時には引くことも大事だ。」(小声) ユーリス:「・・・分かった。」(小声) エーレ:「タイミングを見計ろう。」(小声) ユーリス:「(頷く)」 黒騎士:「何を基準に美味と感じる。」 モラド:「そうだなぁ。 より強い魂を持ってる人間の方が美味しいかな。」 黒騎士:「ならば、口直しのデザートが必要だろう。」 モラド:「へぇ、随分気が効くじゃない。 どうしたの?」 黒騎士:「鼠だ。」 ユーリス:「っ!」 エーレ:「しくったか・・・。」 黒騎士:「立ち聞きとは悪趣味な輩がいるものだ。」 モラド:「・・・ふふ。 そういう事ね。 確かにデザートにはなりそう。」 ユーリス:「どうするの。」 エーレ:「俺が出る。(弓を構える) ユーリスは隙を見て逃げろ。」 ユーリス:「待って。 それ、聖弓アリオーン?」 エーレ:「・・・何故それを?」 ユーリス:「それは・・・。」 モラド:「ねぇ、出て来ないの? それとも僕とかくれんぼしたいのかな。」 エーレ:「話は後で、兎に角今はこの状況を打開しよう。」 ユーリス:「えっ・・・!」 (モラドと黒騎士の前に姿を現すエーレ) エーレ:「待たせたな。」 モラド:「わぁお。 僕って運がいい!」 エーレM:「何だか歓迎されてるみたいだな。」 モラド:「ねぇ、良いんだよね?」 黒騎士:「あぁ・・・、存分に戯れるといい。」 モラド:「やったぁ!」 エーレ:「なんだなんだ。」 モラド:「お兄さん、僕と遊ぼうよ。」 エーレ:「・・・何をご所望かな?」 モラド:「えへへ、こ ろ し あ い♪」 エーレ:「は? 子供がそんな不吉な事言うんじゃない。」 モラド:「ちょっと、僕が子供だからって馬鹿にしてない?」 エーレ:「どういうことだ?」 モラド:「じゃあ問題。 この村の人間たちは一体何処に行ったでしょう?」 エーレ:「・・・。 お前の腹の中か。」 モラド:「・・・正〜・・・」(怪しい笑み) (走ってエーレに近付くと 片手を大きく振り上げ振りかざす) モラド:「解っ!!」 エーレ:「うわっ! 行き成りかよ!!」 モラド:「っと。 逃げちゃだめだよ。」 エーレ:「・・・っ!? 地面が抉れた?!」 モラド:「土なんて食べても美味しくないんだからさ。」 (笑いながら手を横に薙ぐ) エーレM:「土を食べる?」 モラド:「大人しくしてて・・・」 エーレ:「おいおいっ・・・」(冷や汗) (家の壁を抉る) モラド:「よっ!」 エーレ:「いぃっ!?」 モラド:「だから、避けちゃ駄目だってば。 お腹すくから余計な体力使いたくないんだよね。」 エーレ:「無茶苦茶言うなっての。 はい、分かりましたって言うわけ無いだろ。」 モラド:「それもそうだけどさ。」 エーレM:「壁まで・・・。 一体どうなってるんだ。」 モラド:「みんな直ぐ無抵抗になっちゃうんだもん。 恐怖に怯えた人間をそのまま食べるのも楽しいけど、 お兄さんみたいに遊んでくれる人が一番面白いよ。」 エーレ:「俺はそんなつもり微塵も無いけどな。」 モラド:「アハハ! そんな事言わないでもっと遊んでよっ!」(手を振りかざす) エーレM:「くそ、相手が近接だと間合いが取りにくいな。 せめて一瞬でも隙を作ることが出来れば・・・。」 (影から飛び出して後方を指す) ユーリス:「後ろっ!」 モラド:「っ!?」(後ろを振り向く) エーレM:「隙が出来た! 一か八か。」 エーレ:「はっ!」(弓を射る) モラド:「づっ!!」(肩に刺さる) エーレ:「・・・っ。」(様子を伺っている) モラド:「痛ぁっ・・・もう。 ムカつくなぁ。 仲間が隠れてた何てずるい。」 エーレM:「ダメージになってない?」 黒騎士:「女の処理は任せて貰おう。」 モラド:「好きにしなよ。 ただ、僕を騙した体裁は忘れずにね。」 黒騎士:「承った。」 エーレ:「ユーリス逃げろ!」 ユーリス:「分かってるわよっ!」(走って逃げる) 黒騎士:「逃げたか。 無駄な足掻きを。」 エーレ:「待てっ! 行かせるかっ!」 (走って近づいてくる) モラド:「お兄さんの相手は・・・ 僕だよっ!!!」 エーレ:「早いっ!」 モラド:「逃がさないっ!」 エーレ:「っ!?」 (顔すれすれの所で避けると、エーレの背後にあった建物が全部消える) エーレ:「マジかよっ!? 建物全部消えちまった・・・。」 モラド:「ほぉらっ!」 エーレ:「邪魔するなっての!」 (慌てて避けて迫ってきた相手の手首を掴む) モラド:「ちょっ!!」 エーレ:「捕まえたぞ。」 モラド:「っ!」 エーレ:「食べられてたまるかっての。」 モラド:「このっ・・・!」 エーレ:「これで動きは封じた。 あとは・・・ん? 何だ、この手の平の紋様は・・・。」 ユーリス(声):「きゃぁああっ!」 エーレ:「ユーリス!」 モラド:「離せっ!!」(手が離れる) エーレ:「あっ!」 モラド:「・・・っ。」 エーレ:「しまった。」 モラド:「早く助けに行かなくてもいいの? まぁ、お兄さんが僕に背中を向けた瞬間、終わりだけど。 クスクス。」(楽しそうに) エーレ:「いや、まだ方法はあるぞ。」 モラド:「何? やって見てよ。」 エーレ:「後悔するなよ。」 モラド:「そっちがね。」 (エーレは弓を構える) エーレ:「っ。」 モラド:「また弓? それじゃさっきと一緒じゃない。」 エーレ:「それはどうかな!」(矢を射る) モラド:「意味無いって言って・・・うわっ!? げほげほっ!? なにこの煙!! ごほっ、前が見えないっ。」 エーレ:「よし、今のうちだ。」 (走り去る) モラド:「げほっ、ま、待てっ! ごほごほっ。」 ≪一方その頃≫ 黒騎士:「どうする、逃げ場は無いぞ。」 ユーリス:「っ! 行き止まりっ。」 黒騎士:「あの男の仲間か。」 ユーリス:「・・・あの男って?」 黒騎士:「・・・まぁ、良い。」 ユーリス:「・・・っ。」(警戒している) 黒騎士:「貴様は運命を信じるか?」 ユーリス:「は? それがどうし・・・」 黒騎士:「答えろ。」(刃の切っ先を向ける) ユーリス「くっ! ・・・信じる。」 黒騎士:「ならば、死も受け入れられるな?」 ユーリス:「そんなの受け入れられるわけ無いじゃない!」 黒騎士:「何故だ。」 ユーリス:「運命ってのはね、 人に決め付けられるものじゃなくて、 自分で選ぶものだからよ。」 黒騎士:「・・・では、その選択した先が 他人の仕組んだ筋書きだったらどうする。」 ユーリス:「それでも、自分で選んだものなら後悔はしない。」 黒騎士:「戯言を。」 ユーリス:「残念だけど、あんたに殺される運命は 私の選択肢には無いの。」 黒騎士:「ならば試してみるか?」 ユーリス:「させない。」 黒騎士:「ふっ!」(剣を振り上げる) ユーリス:「っ!!」(構える) (滑り込むようにその場に現れる) エーレ:「待てっ! はぁはぁ・・・。」 黒騎士:「・・・丁度良い。」 ユーリス:「え?」 黒騎士:「抗って見せろ。」 ユーリス:「きゃっ!!」 エーレ:「ユーリスっ!」 (ユーリスを人質に取る) 黒騎士:「動くな。 さもなくば女の首が飛ぶぞ。」 エーレ:「ちっ。」(武器を下ろす) 黒騎士:「モラドはどうした?」 エーレ:「モラド? あの子供の事か。 それなら撒いて来た。」 黒騎士:「・・・まぁいい。 お前達にはこのまま地獄へ落ちて貰おう。」 シーラ:「地獄に落ちるのはお前さんだろ。」 黒騎士:「っ! いつの間に。」 ユーリス:「ふっ、えいっ!」 (持っていた杖を振り回すと手が離れる) 黒騎士:「っ!」 エーレ:「ナイスだっ! はっ!」 (黒騎士の手元を狙って矢を射る) 黒騎士:「くっ!」 エーレ:「逃げろ!」 ユーリス:「うんっ!」 (走ってエーレの下へ) 黒騎士:「小賢しい真似を。」 (黒騎士は手から落ちた剣を拾おうと瞬時に動くが シーラに剣先を向けられる。) シーラ:「おっと、動くな。」 黒騎士:「・・・。」 ユーリス:「形成逆転ね。」 黒騎士:「それは、どうかな。」 エーレ:「負け惜しみか?」 黒騎士:「タイムアップだ。」 ユーリス:「ちょっと、どういうこと!?」 黒騎士:「・・・何れまた再会を果たすことになろう。」(去る) ユーリス:「ま、待って!」 (行こうとするユーリスを引き止める) エーレ:「追いかけない方がいい。」 ユーリス:「でもっ!」 エーレ:「(首を横に振る)」 ユーリス:「・・・分かったわ。」 エーレ:「一先ず、生存者が居ないか探して見よう。 もしかしたら、モラドとか言う子供がまだ居るかも知れない、 警戒は怠るなよ。」 シーラ:「了解。」 エーレ:「俺は一人で行く、シーラとユーリスで見回ってくれ。」 ユーリス:「村の入り口に集合で良いわね。」 エーレ:「あぁ。 それじゃまた後で。」 (エーレを見送る) シーラ:「さて、行こうか。」 ユーリス:「あ、これ・・・。」 シーラ:「さっきの黒いのが持ってた剣か。」 ユーリス:「・・・この紋章。」 (二手に分かれて生存者を探すも日一人も見つからず。) エーレ:「はぁ・・・。 やっぱ駄目か。」 ツェッカ:『エーレ、もう表に出ても良い?』 エーレ:「大丈夫だ。」 ツェッカ:『あの村を襲ってた二人組みって何だったんだろ。』 エーレ:「結界を壊す力を所持しているって事と、 村人を全員、跡形も無く消し去ったってのは 紛れもない事実だ。」 ツェッカ:『それにあの紋様。』 エーレ:「ツェッカも気になったか。」 ツェッカ:『うん。何処かで見た覚えがあるんだけど、思い出せないの。 決して良いものじゃないと思うわ。』 エーレ:「そうだろうな。 他に何か感じたことは?」 ツェッカ:『あのユーリスって子。』 エーレ:「?」 (シーラとユーリスが合流) シーラ:「エーレ。」 エーレ:「そっちはどうだった?」 シーラ:「いや。」 エーレ:「そうか、こっちもだ。」 ユーリス:「・・・。」 シーラ:「取り合えず、近くの町へ向かおう。 今回の事を知らせないとな。」 ツェッカ:『それが良いと思うわ。』 エーレ:「よし、行くか。」 (行こうとするエーレを引き止める。) ユーリス:「ねぇ。お兄さん。」 エーレ:「エーレだ。 んで、こっちがツェッカ。」 ユーリス:「え?」 エーレ:「俺達の名前、まだ教えてなかっただろう?」 ユーリス:「・・・そうね。」 エーレ:「それで?」 ユーリス:「・・・。 (少し溜めて) 貴方たちって“紡ぎし唄”と“選ばれし者”よね。」 ツェッカ:『知ってるの?』 エーレ:「そういえば、俺の持ってる武器の事も知ってたな。」 ユーリス:「・・・なんで私がこの話について詳しいか知りたい?」 エーレ:「聞いてもいいなら。」 ユーリス:「“私達”仲間を探してるの。」 エーレ:「仲間を?」 ユーリス:「・・・これを見て。」 (持っていた杖に被せていた布を取る) ツェッカ:『それっ!! 聖杖エーゲリア!?』 ユーリス:「これを持っている理由が分かる?」 エーレ:「・・・俺達と“同じ”だって言いたいんだな。」 ユーリス:「そうよ。」 ツェッカ:『え、でも。 貴女が選ばれし者って事は 紡ぎし唄も一緒に居る筈だけど、どこに居るの?』 ユーリス:「そこに居るじゃない。」 エーレ:「へ?」 ツェッカ:『え?』 ユーリス:「その人。」 (シーラを指差して) シーラ:「そう、俺。」(笑顔で自分を指して) ツェッカ:『えぇえええええええっ!?』 エーレ:「成る程な。」 シーラ:「驚かないのか。」 エーレ:「さっき握手交わしたときに違和感を感じたんだ。」 シーラ:「へぇ。 流石、選ばれし者。」 ツェッカ:『わ、私全然分からなかった、何で!?』 シーラ:「まだまだ経験が足りないって事だな。」(微笑) ツェッカ:『た、確かに精霊の中で一番若いのは私かも知れないけど。 ヤシュムも気付かなかったんだからお互い様よね。』 シーラ:「それもそうだな。ははっ。」 エーレ:「しっかし驚いたな。 人が紡ぎし唄になれるのか。」 ユーリス:「彼は違うわ。 唄は人以外のもので無くてはならないから。」 エーレ:「って・・・事は?」 ユーリス:「“くま”よ。」(キッパリ) エーレ:「・・・く、熊。」(呆気に取られて) シーラ:「今は仮の姿だ。 普段は人の世界で生活してるんだ。 仲間内じゃ変わり者って言われてるんだけどな。ハハハッ。」 エーレ:「えっ、・・・此処までの一連の流れは?」 ユーリス:「村が襲われてたのは想定外だったけど、全部三文芝居よ。」 エーレ:「そっかぁ・・・はは。」(苦笑) ツェッカ:『ちょ、ちょっと笑い事じゃないわよ! 行商人やってたのよね。大切な神具はどうしてたの?』 シーラ:「ちゃんと然るべき場所に保管してあったぞ。」 ツェッカ:『本当、貴方って自由よね。 エーゲリアにそっくり。』 シーラ:「犬は飼い主に似るって言うしな!」 ツェッカ:『貴方、犬じゃないでしょ。』 ユーリス:「言っておくけど、私は歴としたエーゲリアの末裔だから。」 エーレ:「それじゃあ、今の教皇は・・・? 法国ルミナシアはエーゲリア本人が創立したんだよな?」 シーラ:「そうだ。 けど、エーゲリアが退位する時に、 実の弟のミュトスに就任させたんだ。 んで、その血筋が今の教皇。 ルミナシアを名乗ってないのもその所以だな。」 エーレ:「へぇ。」 シーラ:「政には一切興味なかったもんで、 国の礎が固まった時点ですぐに降りたんだよ。」 ツェッカ:『そんな人が何で国を作ろうと思ったんだろ。』 シーラ:「まぁ、理由なんていくらでもあるさ。」 ユーリス:「(咳払い)話を戻すけど、いい? 私達の正体が分かった所で、話があるの。」 ツェッカ:『話って?』 ユーリス:「アルシャディアを救う為に、私達協力し合わない?」 ツェッカ:『それって、仲間になるって事でしょ? エーレ、ラッキーじゃない!』 エーレ:「(困ったように苦笑をする) 確かに行動を共にした方が 色々と都合が良いのは分かってるんだが・・・。」 ツェッカ:『あっ。』 シーラ:「頼まれ事の最中なんだろ?」 エーレ:「そういうこと。」 シーラ:「首都フラーテルに行く用事ってのは、 俺達に関連してる話か?」 エーレ:「まぁ、そうだな。 詳しくは言えないけど。」 ユーリス:「なら、私達も手伝うわ。」 ツェッカ:『えぇ!?』 ユーリス:「ぶっちゃけると・・・ かなり行き当たりばったりだったから その方が助かるの。」 エーレ:「そういう事か。(苦笑)」 シーラ:「すまないな、俺も制限が多いもんでさ。」 ツェッカ:『“運命の鎖”ね。』 エーレ:「(小さい溜息) 正直、俺達もこの先どうなるかは予想出来ない。 こっちの都合で振り回す事になるかもしれないけど、 それでもいいのか?」 ユーリス:「勿論。 自分で選んだ道だから。覚悟は出来てる。」 エーレ:「なら、断る理由はない。 答えは“YES”だ。」 ユーリス:「安心したわ。」 エーレ:「そうだ、シーラ。」 シーラ:「お?」 エーレ:「本当の名前は?」 シーラ:「んじゃ、改めて自己紹介を。 “理性と慈愛を紡ぎし精霊”アルクトスだ。」 エーレ:「アルクトスか。」 シーラ:「あぁ、出来れば人の時は “シーラ=サディーク ”の方で呼んで貰えると有難い。」 エーレ:「分かった。」 ユーリス:「改めて、よろしく。」 エーレ:「こちらこそ。」 ツェッカ:『それじゃ、次の町で報告を済ませたら 首都フラーテルに向けて出発ね。』 黒騎士(N):「悠久の時を流れ往く風は 幾重もの時を駆け抜け、歴史を紡いできた。 そして、遺風に暇乞いし 新たな息吹をもたらそうとしいる。」 ユーリス:「次回『Histoire of Eternto(イストワール オブ エテルノ)』 第13話 繋がる意思」 ツェッカ:『クスッ。』 ユーリス:「?」 エーレ:「ツェッカ何が可笑しいんだ?」 ツェッカ:『あのね、正体分かってから面白くなっちゃって。ふふふ。』 ユーリス:「何に?」 ツェッカ:『だって、熊が馬車を運転してるって 様子が可笑しくて・・・ふふっ。』 (二人でシーラを見る) エーレ:「あぁ・・・。」 ユーリス:「うっ。」 シーラ:「ん、どうした?」 エーレ:「確かに・・・くくっ。」(笑いを堪える) ユーリス:「笑わないでよ、意識しないようにしてたのに!」 もどる