【こよひ逢ふ人みなうつくしき】
〜紫糸の絵巻〜
●佐武 甲斐(さたけ かい)♂ 見た目年齢30代前後
●環 千十郎(たまき せんじゅうろう)♂ 見た目年齢10代後半
○常葉 影千代(ときわ かげちよ)♀ 19歳
◎縁(えにし)♂ 見た目年齢10代未満
●薺 銀治郎(なずな ぎんじろう)♂ 見た目年齢30代前半
○臼井 千鶴(うすい ちづる)♀ 見た目年齢10代後半
●鎌谷 一鉄(かまたに いってつ)♂ 見た目年齢20代後半
○榊(さかき)♀ 見た目年齢20代後半
その他(簡易紹介)
○提灯お化け 小雪(こゆき)♀
●亥澄箕(いずみ)♂
○子音槻(ねねつき)♀
●午瑳近(まさちか)♂
●卯戯(うぎ)♂
●常葉 遥(ときわ はるか)♂
●常葉 秀久(ときわ ひでひさ)♂
○女♀
●男♂
[登場人物・技詳細]
【比率4:4】
佐武 甲斐+亥澄箕 (♂):
薺 銀治郎+男+午瑳近 (♂):
鎌谷 一鉄+秀久 (♂):
遥+退魔師+卯戯 (♂):
常葉 影千代 (♀):
榊+女+小雪 (♀):
臼井 千鶴+縁 (不):
環 千十郎+子音槻 (不):
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薺N:『この世に存在する妖怪は大きく分けて二種類いる。
一つは、生を受けたその時から妖怪として生きるもの。
もう一つは、生前にただならぬ怨念を抱え
“何か”に憑かれモノノフとして生きるもの。
その“何か”とは様々で、
大概、自らが命を落とした場所に由来したものか、
近しい私怨を持っているモノに憑かれることがある。』
遥N:『そして、生前に持っていた恨みや怨念が強ければ強いほど
人に害をなし、大地の息を止めるような
恐ろしく、強力なモノノフが生まれる。
それが、後に絵巻などで
“名を持ちし大妖怪”として語られることが多い。』
女:「もう、行かれてしまうのですか?」
男:「あぁ・・・。私にもやらねばならぬ事がある。」
女:「・・・。」(切なそうな表情をする)
男:「ふっ、そう悲しいそうな顔をするな。
この大事が終われば・・・」
女:「約束・・・。」
男:「ん?」
女:「またここへ来て下さると
約束してくださいますか?」
男:「勿論だ。」
女:「本当に?」
男:「どうやら、信用されていないようだな。」
女:「貴方様は風のように掴みどころの無いお方。
次はいつ訪れるのか。いつも寂しく思うております故。」
男:「私の気を引こうとしているのか。」
女:「いけませぬか?」
男:「はは、君の愛おしい所でもあるな。」
女:「もう、からかうのはやめて下さいまし。」
男:「すまんすまん。 私は居る事が出来ぬが
・・・変わりに是を。」
女:「・・・? かざぐるま、ですか。」
男:「ただ通り過ぎるだけではなく
何れ、君がまわるための風になろう。」
女:「・・・っ。」
男:「今は遠く離れていても、風は吹き続ける。
愛しき君。いつ、なんどきでも傍に居るよ。」
女:「このかざぐるまに貴方様を感じながら
また、お会い出来るのをお待ちしております。」
女M:「この命尽きるまで、この地で・・・。」
薺N:『その一方・・・。
人の中にも、稀に強い霊力を持って生れてくる子供が居るという。
彼らは、人の世を守るため、妖怪を滅するため、その童を育て
独自の手法で力を築き上げ、世の中に平和をもたらした。
それが“退魔師”という存在である。』
遥:「だが、その平和も長くは続かなかった。」
縁:「何故、ですか?」
遥:「教訓をすぐ忘れるのも、人の特徴の一つ。」
縁:「きょう、くん?」
遥:「そうだ。
どれだけ苦しめられた過去があったとしても、
経験の無い者に、恐ろしさなど分からない。」
縁:「確かに、そうですね。」
遥:「時代の流れとともに妖怪の存在が人々の記憶から薄れ
退魔師も当然、不必要とされる。
それがどういう意味か分かるかい?」
縁:「えっと・・・。」
遥:「古に封印されしモノノフが復活する格好の機会になる。」
縁:「あっ!」
遥:「(頷く)だからこそ、
我々の秘術は一子相伝(いっしそうでん)し
絶やしてはならない。
封呪し続け、妖は滅ぼす。 それが宿命だからね。」
縁:「宿命、ですか。」
遥:「あぁ・・・。ふっ。」
縁:「・・・? 思い出し笑いですか?」
遥:「いや。」
縁:「??」
遥M:「例え、それが・・・まやかしだったとしても。」
臼井N:『貴方は菊のように私を信じよと囁き
貴女は紫苑のように遠方(おちかた)にある人を想い、追憶する
永遠不変の優しき衣は羽を撫で
子は喜び歓喜を奏でる
そして、彼(か)の地に咲き乱るるは三椏(みつまた)
彼(か)の言霊は 永遠の愛を・・・。』
<満月の夜・竹林にて>
薺:「ぐわああっ!?」
臼井:「銀治郎!!」
榊:「うふふ、あはははははっ!!
お主のような小物が、わらわに敵う筈が無かろう?」
薺:「くっ・・・。」
榊:「それとも何か? 仕留められると本気で思うておったのか?
あはははははっ!!! 片腹痛いわ!」
薺:「ぐっ。」
榊:「さぁ、どうする? このお遊びも
そろそろ飽きてきたぞ。」
臼井:「銀治郎、逃げましょう。」
榊:「そう簡単に逃げられると・・・」
鎌谷:「でりゃああああああああああっ!」
(巨石が飛んできて榊に当たる)
臼井:「へっ!?」
榊:「何っ!? ぎゃぁ!?」
臼井:「岩が飛んできた!?」
薺:「っ!?」
臼井:「でも、一体誰が?」
鎌谷:「二人とも、無事か!?」(近づいてくる)
臼井:「あ、一鉄!」
薺:「君だったか。」(少し安堵)
臼井:「もしかして、あの巨岩投げたの貴方?」
鎌谷:「あぁ。」
臼井:「すごい怪力。吃驚したわ。」
鎌谷:「任せろ、あれくらい軽いもんさ。」
榊:「ぐっ、小癪なぁ!! ぐぐっ!」(巨岩をどかそうともがいてる)
薺:「・・・っ、あれでは一時凌ぎにしかならない。」
鎌谷:「分かってる。
だが、ちったぁ、逃げる時間を稼げるはずだ。」
臼井:「そうね。」
鎌谷:「うし、急いで逃げるぞ。」
臼井:「わかった!」
鎌谷:「銀治郎、動けるか。」
薺:「あ、あぁ。」
榊:「おのれ・・・っ!! 逃がさぬ!!」
鎌谷:「さぁ、俺に捕まれ。」
薺:「くっ、すまない。」
鎌谷:「よし、行くぞ!」
臼井:「うん!」
(三人で逃げる)
榊:「くっ、邪魔だっ!! はぁはぁ。
(巨岩を押しのけ、周りを見渡す)
・・・ふんっ。 逃がしてしもうたか。
まぁよい。必ず引きずりだしてやる。
どんな手を使こうてでも。・・・ヒヒ。
・・・ぎゃははははっ!」
<満月の夜・神殿にて>
(手に持っている一本の風車をじっと見ている影千代のもと
に少年が近付いてくる)
常葉:「・・・。」(小さく溜息)
縁:「影千代さま、影千代さま。」
常葉:「どうした、縁。」
縁:「かざぐるまなんて眺めて、どうかなされたんですか?」
常葉:「・・・別に。」
縁:「この辺じゃ余り見かけませんが・・・。」
常葉:「あぁ、出歩いて居た時に子供がくれた。」
縁:「そうなんですか〜。
風に吹かれて回る姿を眺めるのも、また風流ですね。
心が落ち着きます。」
常葉:「そうだな。」
縁:「しかし・・・。」
常葉:「ん?」
縁:「哀愁漂うそのお姿も、真にお美しいですよ。」
常葉:「世辞はいらん。」
縁:「そんな、本当の事を申しただけで・・・」
常葉:「(遮る)縁。」
縁:「ぅ。」
常葉:「・・・何か用事があってきたんだろ?」
縁:「あ、そうでした。
お父上さまから言伝(ことづて)を預かって参りました。」
常葉:「父上から?」
<村の一軒家>
臼井:「一鉄、そこに銀治郎を寝かせて。」
鎌谷:「わかった。・・・っと。」
薺:「ぐっ・・・。」
臼井:「すぐ手当てするからね、少しの辛抱よ。」
鎌谷:「酷い怪我だな。」
臼井:「うん、私を庇って・・・。ごめんね。銀治郎。」
薺:「気に、病むことは・・・無い。」
鎌谷:「・・・千鶴、あの妖怪は一体。」
臼井:「(首を横に振る)私にも分からない。」
薺:「・・・。」
鎌谷:「じゃ、どうやって遭遇したんだ?」
臼井:「それは・・・
竹林の方から異様な空気を感じて、
銀治郎と一緒に様子を見に向かったの。」
鎌谷:「それで、襲われた、と。」
臼井:「うん。
何の前触れもなく現われたと思ったら、急に襲われて。
それで、その後すぐに貴方に助けて貰ったのよ。」
鎌谷:「う〜ん。」
薺:「あ、あれは・・・。」
鎌谷:「ん? 銀治郎、お前知ってるのか。」
薺:「あぁ。
・・・あれは、
大昔に、この地へ、封印・・・されて、いた
大、妖怪。・・・紫糸の、八牙(ししのやつが)
・・・さ、かき・・・だ。」
臼井:「え!?」
鎌谷:「なんだって!? それは本当か!?」
薺:「間違い、ない。
封、の・・・術が、切られて、いた。・・・づっ!」
臼井:「銀治郎、無理はしないで。」
薺:「はぁはぁ・・・。」
臼井:「一鉄、詳しいことはまた後で。
今は休ませてあげましょ?」
鎌谷:「そうだな。銀治郎すまなかった。
今は傷を治すことに専念してくれ。」
薺:「あ、あぁ・・・。」
臼井:「・・・でも、どうしたら良いんだろう。」
鎌谷:「そうだな、これじゃあ見聞が少なすぎる。」
臼井:「・・・、これさ。」
鎌谷:「ん?」
臼井:「私たちだけで、どうにか出来る問題じゃないよね?」
鎌谷:「まぁ、結論で言っちまったらそうなるな。」
臼井:「・・・。」(深刻そうに)
薺:「・・・助けを・・・呼ぼう。」
鎌谷:「銀治郎、宛があるのか?」
薺:「(頷く)」
<昼間・日差しの暑い日>
環:「あづ〜・・・。」
佐武:「そうですね。」(涼しそうな顔)
環:「佐武さん、全然平気そうですけど・・・。」
佐武:「暑いと思うから暑いんですよ。
心頭を滅却すれば火もまた涼しです。」
環:「心を・・・消滅させ・・・。」
佐武:「・・・。」
環:「ぬぅ・・・・・・(暫く瞑想するが・・・)
・・・・・出来ない、です。」
佐武:「奇遇ですね。私も出来ません。」(キリッ)
環:「ぇええ!?」
佐武:「暑いものは暑いんです。
それをどうしろっていうんですか。
私が聞きたいくらいですよ。」
環:「さっき言ってたのって・・・一体。」
佐武:「・・・あそこに丁度良い木陰が。」
環:「ん?」
佐武:「この辺で少し、休憩を取りましょう。」
環:「は、はい。」
(近場にあった木陰に腰を下ろし休憩する二人)
環:「ふぅ。
あ、そういえば・・・。」
佐武:「どうしました?」
環:「佐武さんって、元々人だったんですよね?」
佐武:「はい。」
環:「ずっと疑問に思ってた事があるんですけど
聞いても良いですか?」
佐武:「答えるか否かは、内容にもよりますが・・・。
聞くだけ聞きましょう。」
環:「桔梗さんと話してた内容で気になってた部分があって。」
佐武:「東雲さんと、ですか。」
環:「はい。」
佐武:「随分と昔の話を持ち出してきましたね。」
環:「す、すいません。」
佐武:「それで、聞きたい事とは?」
環:「えっと・・・。
浅葱家二代目、緑黎(りょくれい)って・・・
佐武さんのお子さん・・・ですか?」
佐武:「・・・(小さく息を吐く)
そうですよ。緑黎(りょくれい)は私の息子です。」
環:「っという事は、奥さんもいたんですよね。」
佐武:「・・・それが、どうかしたんですか?」
環:「佐武さんの家族って、どんな人達だったのかなぁって。」
佐武:「興味があるんですね。」
環:「はい。俺は、生まれた時から妖怪だから・・・」
佐武:「・・・。」
環:「親もいないので、想像出来なくて。」
佐武:「私が答えるには少し難しい質問です。」
環:「どういうこと、ですか?」
佐武:「当時の生業柄、
家族と接している時間は皆無だったので、
語れる事が少ない、というだけですが。」(平然としている)
環:「は、はぁ・・・。」
佐武:「ただ。」
環:「?」
佐武:「口癖のように“子供で遊ぶな”と
注意をされていたのを覚えています。」
環:「それって・・・」(苦笑)
(ひらひらと蝶が環の目の前を通り過ぎる)
環:「ん? ・・・あれ。 こんな所に揚羽蝶?」
佐武:「これは・・・式神ですね。」
環:「あ、佐武さんの手に止まった。」
佐武:「面倒ごとの兆候が見えます。」
環:「面倒ごとですか?」
佐武:「はい、ですからこのまま素知らぬ振りを・・・」
環:「え、いやいやいや! 見てあげましょう!?」
佐武:「え〜・・・。」
環:「ほら、見てみないと分からないじゃないですか、ね?」
佐武:「それもそうですが。」
環:「もしかしたら、吉兆かもしれませんよ?」
佐武:「違ったら責任取ってくれるんですか。」
環:「せ、責任は取れませんけど・・・。」(段々声が小さくなる)
佐武:「・・・はぁ(溜息)
全く・・・ん、これは。」(揚羽蝶を見て)
環:「佐武さん?」
佐武:「・・・解呪してみましょう。」
環:「急にどうしたんですか。」
佐武:「気が変わりました。」
環:「なら、良かったですけど・・・。」
佐武:「『解の印 戻(れい)』」
環:「・・・? 元の姿に戻らないですね。」
佐武:「・・・・(少し考えて)
『陰印・我は菊、彼方は紫苑
真に夾竹桃(きょうちくとう)を儀に尽くす 解呪』」
(解呪と共に書紙になって地面に落ちる。それを拾う環。)
環:「あ、戻った。
っと・・・。書紙(しょし)ですね。」
佐武:「・・・なるほど。大体の内容は分かりました。」
環:「え、読まなくてもいいんですか?」
佐武:「勿論目は通します、が・・・」
環:「?」
佐武:「これは、前途多難ですよ。」
<神殿の中、前の会話の続き>
常葉:「・・・申せ。」
縁:「はい。
“西の地にて、紫糸の八牙(ししのやつが)が甦りし。
早急に彼の地に出向き滅びを与えんことを”
・・・と言伝を預かってまいりました。」
常葉:「私に出向けと?」
縁:「そういう事だと思いますよ。」
常葉:「兄者達は?」
縁:「遥(はるか)さまも、秀久(ひでひさ)さまも
出払われて居られます。」
常葉:「・・・チッ。 面倒臭いな。」(ボソ)
縁:「今、チッって言いました?
しかも面倒臭いって言いましたよね? ね?」
常葉:「言ってない・・・。」
縁:「・・・お父上さまに報告しちゃおっと。」(ボソ)
常葉:「・・・皮剥いで狸鍋にするぞ。」
縁:「え、縁は美味しく御座いませんよ!!?」
常葉:「食べてみないと分からない。」
縁:「ぇえええ!? ご勘弁を!!」
常葉:「兎に角、父上に一々報告するな。」
縁:「は、はひっ!」
常葉:「はぁ・・・。準備を始めるか。」
縁:「(安堵のため息)
気を付けて行ってらっしゃいませ、影千代さま。」
常葉:「は?」
縁:「へ?」
常葉:「縁、お前も行くんだよ?」(腹黒いニヤリ)
縁:「その笑顔が恐ろしく怖いです。 いやな予感しかしません!」
常葉:「ツベコベ言わず着いて来い!」
縁:「ちょ、ちょ」
常葉:「『封の陰 式神返還・・・』」
縁:「ちょっと待ってくだs」
常葉:「(被せる)『戻れ 縁』」
縁:「わぁあッ!?」
常葉:「・・・兄者には悪いけど、この式神は借りてくよ。
何かの役には立つだろうからね。」
<夜・森の中>
環:「此処が書紙(しょし)に記してあった場所なんですか?」
佐武:「えぇ、この辺りで合ってる筈です。」
環:「・・・何か、薄気味悪い所ですね。」
佐武:「・・・。」
環:「やたらとかざぐるまが多いし。」
佐武:「何故、是ほど数が多いか分かります?」
環:「い、いいえ。」
佐武:「それだけ多くの童が亡くなったという事。」
環:「!!」
佐武:「かざぐるまは、昔から子をあやす道具としての風習があります。
恐らくこの地の霊を慰めるために使用しているんでしょう。」
環:「そうなん、ですね。」
佐武:「・・・。」(何か企んだ無言)
環:「どうしまし・・・」
佐武:「環さん。」
環:「は、はい。」
佐武:「この辺りを調べたいので
少しの間、提灯を持っていて下さい。」
環:「あ、分かりまし・・・」(受け取る)
小雪:「あ〜ら〜・・・」(提灯くるりと振り向く)
環:「へ?」
小雪:「可愛い坊やね。ふふ。」(ウインク☆)
環:「うわぁあああ!!」(投げ捨てる)
小雪:「ぶわっ!? い、痛いわねっ。
放り投げること無いじゃない!」
環:「ちょ、ちょ提灯が喋った〜!!?」
佐武:「五月蝿いですよ。」
環:「いや、だって! こ、これ!!??」
佐武:「あぁ、彼女は提灯お化け(強調)の・・・。」
小雪:「ちょっと、拾ってから紹介してくれない?」(怒)
佐武:「これは失礼。(拾う)こちらは提灯お化けのこゆk」
環:「ひぃいいい!? もういいです! 許してください!!
お願いですからこっち向けないで下さいぃい!」
小雪:「これ以上叫ぶと魂抜くよ。」(ドスの利いた声)
環:「ひっ・・・。」
小雪:「それでいいのよ。
ったく・・・。あたしは小雪、宜しく。」
環M:「こ、小雪って面相じゃな・・・」
小雪:「何か言った?」(あん? って感じで)
環:「い、いいいえ!? そんな滅相も御座いません!!」
環M:「心が読まれてるっ!?」
佐武:「せ〜ん〜じゅ〜ろ〜」(バリトンでうらめしや〜調)
(背後から肩にを掴む)
環:「ひいいぃ!? ごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!」
佐武:「・・・よく見てください、私です。」
環:「佐武さん〜。 驚かさないで下さいよ〜。」
佐武:「その幽霊が苦手な所、どうにかなりませんか。」
環:「そんな事言われても・・・。」
佐武:「まぁ、いいです。
早く手元を灯してください。」
環:「は、はい。」(泣き)
小雪:「優しく扱ってねん。」
佐武:「これは・・・。」
環:「ど、どうしました?」(恐る恐る)
佐武:「墓石ですね。 術が破綻しています。」
小雪:「あら、見たことある場所だと思ったら。」
佐武:「ご存知なんですか?」
小雪:「えぇ、その墓石は・・・」
臼井:「(遠くから)すいませぇんん!!」
環:「誰か来たみたいですよ。」
佐武:「・・・そうですね。」
臼井:「はぁはぁ、すいませんん!」(段々近づいてきてる)
佐武:「恐らく、彼女です。」
環:「もしかして、書紙に?」
佐武:「はい、女性の迎えを寄こすと・・・」
臼井:「お待たせしまsっ ぎゃふん!?」(転ぶ)
環:「だ、大丈夫か!?」
臼井:「ごめんなさい。ちゃんと足元見てなくて。
(服についた埃をはらい立ち上がる)
よいしょっと。」
環:「へっ・・・!? あ、あたあたまがっ!」(動揺)
臼井:「あの、佐武さんでお間違えない、ですか? あれ?」(何かおかしいと感じる)
佐武:「・・・落ちてますよ。」
臼井:「え?」
佐武:「・・・頭。」(地面に転がる臼井の頭を指して)
臼井:「わぁっ!? どうりで視界がおかしいと思ったら。
頭、頭・・・。(地面を探す)
あ、あった。 っと。(装着)コホン、失礼。」
佐武:「いえ。・・・私が佐武で間違いないです。」
臼井:「お会い出来て良かった。あ、えっと。
こちらから御呼びだてしたのに
お待たせしてすいません!」
佐武:「その事ならお気になさらず。」
環:「さ、佐武さん・・・この人、は?」(震え声)
臼井:「私は臼井 千鶴(うすい ちづる)です。
見ての通り、轆轤首の妖怪よ。」
環:「よ、妖怪か・・・。」
環M:「良かった。」
臼井:「君は?」
環:「俺は鎌鼬の環 千十郎。」
臼井:「千十郎ね、よろしく。」
環:「よろしく。」
佐武:「それで、是はどういうことです。」
臼井:「その件で逢って貰いたい人が居るんですけど
着いて来て頂けますか?」
佐武:「・・・分かりました。」
<祠入り口>
常葉:「此処か・・・。
『解の印 式神召喚
陽・策詞の子(さくしのね) 参れ 子音槻』」
子音槻:「ふぅ。影千代、呼んだかしら?」
常葉:「子音槻、紫糸の八牙について詳しい知識は?」
子音槻:「残念だけど。」
常葉:「そう。」
子音槻:「古の妖怪は山ほどの説があって、どれも確証はないし、
兎に角、謎が多いのよ。」
常葉:「なら、現地で調べるのが一番信用高いか。」
子音槻:「そうね。」
常葉:「(頷く)子音槻、どんな小さな事でもいい。
噂を集めてきてくれ。」
子音槻:「御意。」
常葉:「私は先行して接触してみる。
それで済めば、このお役目は終わりだ。」
子音槻:「余り無理はしないようにね。」
常葉:「えぇ。」
子音槻:「それじゃ、また後で。」
常葉:「(頷く)
『解の印 式神召喚
陽・幻唱の狸(げんしょうのり)参れ 縁』」
縁:「っ!? か、影千代さま。行き成り連れ出すなんて酷いですよ。
縁は遥さまの・・・・」
常葉:「縁。」(顔を近づける)
縁:「うわっ!?」
常葉:「何か問題でも?」(凄む)
縁:「い、いえぇ。別にぃ〜♪」
常葉:「分かればいい。
さて、私達はご対面といこうじゃないか。」
(祠の奥へ進む)
縁:「うわぁ・・・。蜘蛛の巣だらけですね。」
常葉:「・・・これは。」
縁:「どうなされました?」
常葉:「人の亡骸だ。」
(ぐしゃっと蜘蛛の巣が崩れて亡骸が顔を出す)
縁:「ひぃいい!?」
常葉:「こうやって捉えたまま
生気を取り込んでいるんだな。」
榊:「ふふふ・・・、呼ばぬ客が来おった。」
常葉:「現れたか。紫糸の八牙(ししのやつが)。」
榊:「その名を知ってるモノが現れるとは。
・・・お主は何者ぞ?」
常葉:「妖怪如きに名乗る名(めい)は、持ち合わせていない。」
榊:「ヒヒ。 まぁ良い。 して何用で此処へこられた?」
常葉:「お役目を果たす為に。」
榊:「ふん。 遊び相手になれとでも?
わらわもさして暇ではないのだが。」(冷たい視線)
常葉:「こちらとて同じ。だが、人生は大いなる暇つぶし。
楽しくやろうじゃないか。」
榊:「・・・わらわはお主のような
小生意気な雌に、興味が沸かぬ。
ましてや遊び相手など、なる訳なかろう。」(うざったいという表情)
常葉:「我が侭だな。」
縁:「そういう問題では・・・。」
常葉:「そうだ、手頃な雄なら此処にいる。」(差し出す)
縁:「え、縁ですか!?」
榊:「そんな小物、相手する気にもなれぬわ。」
常葉:「チッ。」
縁:「またチッって言った!?」
常葉:「(無視)紫糸の八牙。」
縁:「無視っ!?」
榊:「なんじゃ、これ以上は最早、蛙鳴蝉噪(あめいせんそう)。」
常葉:「いいや。 これまでの悪行を見過ごす訳にはいかない。」
榊:「悪行? はて、そのような行いをした覚えはないが・・・」
常葉:「白々しい。 この亡骸共が証明している。」(亡骸を指して)
榊:「何を言うかと思えば。はははっ。」
常葉:「・・・?」
榊:「それは子を養う為。 人が生をなす為にする事と同じ。
何も悪いことではない。」
縁:「確かに、間違っては・・・いないですよね。」
常葉:「っ。」(悔しい)
縁:「どうなされるおつもりですか?」
常葉:「だから対話が出来る妖怪は面倒なんだよ。」
縁:「え?」
榊:「負け惜しみかえ? ふふ。」
常葉:「ええい!! もういい、問答無用だ!
退魔師の名においてお前を滅するっ!」
榊:「・・・退魔師? 今、・・・退魔師と申したか?」
常葉:「それがどうした。」
榊:「・・・ふ。ふふふ、あはははははっっ!!!!
きゃははははははははっ!!!!」
縁:「急に笑い出しましたよ!?」
常葉:「何がおかしい。」
榊:「前 言 撤 回する。フフッ。」
常葉:「ん?」
榊:「今此処でお主を喰ろうてやるわ!!」(攻撃)
常葉:「っ!? ・・・と。」(避ける)
榊:「あぁ、憎い・・・。」
常葉:「へぇ、やれるじゃないか。
これで私も心置きなくお前を始末することが出来る!」
榊:「やっと現われた・・・この世で随一憎い存在よ。
わらわが滅ぼしてくれる・・・退魔師、ケヒッ。」(ニタァ)
縁:「・・・っ!? 様子がおかしいですよ。」
常葉:「見れば分かる。『解の印 式神召喚・・・」
榊:「させぬ!!」
常葉:「あっ!?」
縁:「い、糸がっ。」
(糸を張り巡らせ、常葉の体を縛り付ける)
常葉:「くっ、しまった。」
榊:「油断したわね。これでお主は身動きできない。
・・・この紙切れも、お預け。」
常葉:「むっ。」
(奪い取られる)
縁:「お札がっ!」
榊:「印を破れば(ビリっと破る)
お し ま い。ヒヒ。」(破った紙を落とす)
常葉:「・・・っ。」
榊:「式神が無いと何も出来ぬだろう。
さぁ、どうする。」
常葉:「余程の私怨みたいだな。」
榊:「・・・お主たち退魔師への恨みは
是くらいじゃ収まらぬ!!!」
縁:「・・・っ。」
榊:「ふふっ。さて・・・。まずは
指を一本ずつ千切っていこうかしら。」
縁:「わわっ。」
榊:「若しくは目玉を抉ってから臓器を一つずつ
引きずり出すのも爽快かも知れぬな。ふふっ。」
常葉:「いい趣味してるよ。」
榊:「考えるだけでゾクゾクする。うふふ、はははははっ!!!」
常葉:「縁。」(ボソッ)
縁:「っ!」
榊:「イヒヒヒヒヒッ! すぐには逝かせてはやらぬぞ。」
常葉:「そう簡単にやられるわけには行かない。」
榊:「自由の利かぬ体で何が出来る。」
常葉:「方法はいくらでもある。『陽・幻唱の狸・・・」
榊:「(遮る)あとはっ!!」
常葉:「むぐっ!!」
(勢い良く手を口元に押さえつけて黙らせる)
榊:「この法螺吹きな口も・・・もぎ取ってしまおうかしら。」
常葉:「んっ・・・。」
縁:「影千代さま!」
榊:「哀れなものよ。
退魔師を名乗る者がこの程度だったとは。」
常葉:「んぐっ!」(縁に合図)
縁:「はいっ! か、『火遁の術!』」
榊:「っ!? ・・・はははっ。
温い。 それでわらわの気が引けると?」
常葉:「縁、ご苦労だった。」
縁:「ご無事で何よりです。」
榊:「なに? ・・・っ!? わらわの糸が燃やされた!?」
常葉:「こいつを、そこらの狸と一緒にしないで貰おうか。」
榊:「ありえぬ!! そんな筈はない!!!」
常葉:「ありえないなんて事はありえない。」
榊:「小癪な! わらわの糸は龍の焔にも堪え得るも・・・」
常葉:「紫糸の八牙。」
榊:「・・・っ!?」
常葉:「打っていいのは打たれる覚悟のある奴だけだ。
・・・覚悟は出来ているな?」
<一軒家>
臼井:「着きました。」
環:「此処は?」
臼井:「私たちの隠れ家みたいな所かな。」
環:「へぇ・・・。」
臼井:「さ、お二方。お入りください。」
佐武:「失礼します。」
環:「お邪魔します。」
臼井:「只今! 戻ったわよ。」
鎌谷:「千鶴、ご苦労さん。」
臼井:「うん。 様子はどう?」
鎌谷:「今の所、安定してる。」
臼井:「良かった。」
鎌谷:「んで、アンタが佐武か?」
佐武:「はい。 貴方は?」
鎌谷:「俺は元興寺(がごぜ)の鎌谷 一鉄だ。
坊主は?」
環:「俺は 環 千十郎。」
鎌谷:「宜しくな。
二人ともわざわざ足を運んで貰って悪かったな。」
佐武:「いいえ。 所で、もうお一人は?」
臼井:「え?」
(傷を庇いながら奥の襖から姿を見せる。)
薺:「・・・良くぞ、いらっしゃいました。」
臼井:「銀治郎!」
佐武:「やはり貴方でしたか。」
臼井:「まだ安静にしてなきゃ駄目よ。」
薺:「あぁ・・・。」
環:「顔見知りなんですか?」
佐武:「えぇ。 あの式神を送ってきた本人です。
三つ目妖怪。 薺 銀治郎。」
薺:「・・・あれを解けるのは貴方しか居ないと。」
佐武:「偶然ですよ。」
薺:「ご謙遜を。
しかし、お久しゅう御座います。佐武殿。」
佐武:「お久し振りですね。 この怪我はどうしたんですか。」
薺:「それが・・・。くっ。」
臼井:「ほら、横になって。」
薺:「すまない。」
鎌谷:「俺が変わりに説明しよう。」
佐武:「お願いします。」
鎌谷:「つい最近
紫糸の八牙、榊って言う大妖怪が現れてな。」
環:「紫糸の八牙って女郎蜘蛛(じょろうぐも)の?」
鎌谷:「坊主は知ってるのか?」
環:「この前、紙語りのおじさんが話してたのを
通り掛けに聞いててさ。」
鎌谷:「ほう。」
臼井:「絵巻になるくらい有名だったのね。
あの墓石に何が封印されてたのか、までは知らなかったし。」
佐武:「知らなかった、と言うよりも・・・。」
臼井:「え?」
佐武:「いえ、何でもありません。」
鎌谷:「それで、千鶴と待ち合わせていた場所があるだろ?」
環:「あの墓石?」
鎌谷:「あぁ。あそこが
榊の封印されていた場所だ。」
佐武:「封術が破綻した原因は分かりますか?」
臼井:「(首を横に振る)」
鎌谷:「今の所は。」
佐武:「なるほど。」
鎌谷:「こっちも見聞が少なくてな。 話せるのはこれくらいだ。」
佐武:「わかりました。」
臼井:「ねぇ。」
環:「ん?」
臼井:「私思うんだけど、犯人は人じゃないかしら?」
環:「え、なんで?」
臼井:「あの墓石は特殊な結界が施してあって、
私達妖怪は触ることが出来ないからよ。」
環:「それじゃぁ人が?」
鎌谷:「まぁ、可能性としては無くはない。」
佐武:「しかし、困りましたね。」
薺:「えぇ、あれは。退魔師と私怨のある妖怪。
その矛先があの名家となればなお更・・・。」
鎌谷:「ん〜、面倒なことになってんな。」
薺:「あぁ。」
環:「名家って?」
臼井:「私にもちょっと・・・。」
鎌谷:「なんだ、知らないのか。」
臼井:「ご、ごめん。」
鎌谷:「名家っていうのはな、
退魔の仙人(せんじん)が唯一取った弟子達のことだ。」
臼井:「退魔の仙人ってそんなに凄いの?」
鎌谷:「あぁ、そんじょそこらの奴らとは比較にならない。
今の退魔を拓(ひら)いた人物でもある。」
環:「そんな人がいるんだ。」
鎌谷:「あぁ。兎に角この名前だけは覚えておけ。
本家である常葉(ときわ)を中心とした分家。
久我(くが)、篁(たかむら)、浅葱(あさぎ)。」
環:「!」
鎌谷:「いいか?
こいつ等だけには鉢合わないようにな。」
臼井:「わ、分かった。」
環:「あ・・・えっと・・・。」(佐武を見ながら)
佐武:「どうしました?」
環:「浅葱って・・・佐武、さん・・・の。」(ボソッ)
佐武:「そうですね。」(知らない振り)
臼井:「でも、今時悪さをする妖怪なんて滅多にいないのに。
退魔師の家業って、まだ根強く残ってるのね。」
薺:「紫糸の八牙のように封印されている古の妖怪も居る。
そのお目付け役としての存在意義もあるのかも知れない。」
臼井:「存在意義かぁ。」
佐武:「中には霊力に恵まれない人もいます。
封印なんていつ破綻するかわかりません。」
鎌谷:「その為に必要ってことか。」
佐武:「そうです。」
臼井:「どっちにしろ危険な事には変わりはないし
遭わないように気を付けなきゃ。」
環:「うぅ〜ん。」(渋ってるというか複雑)
臼井:「勿論、千十郎もだよ?」
環:「え?」
臼井:「だって、佐武さんと放浪の旅をしてるんでしょ?
私達より遭遇する可能性は高いんだから、危ないじゃない。」
環:「っというか・・・。」
鎌谷:「どうした坊主。」
環:「佐武さん、これ・・・言って良いんですかね?」
佐武:「・・・構いませんが。」
薺:「千十郎、だったかな。」
環:「はい?」
薺:「その事は、私から伝えよう。」
環:「わかりました。」
薺:「一鉄、千鶴。」
鎌谷:「ん?」
臼井:「どうしたの?」
薺:「そういう話をした傍からで申し訳ないんだが、
彼、佐武殿は・・・浅葱家初代統領なんだ。」
鎌谷:「っ!!?」
臼井:「うえええええ!?」
環:「やっぱこういう反応になるよな・・・。」
臼井:「私達退治されちゃうの!?」
佐武:「その心配は要りません。私も今は妖怪なので。」(しれっと)
臼井:「で、でも!」
佐武:「それに、そこに居る銀治郎も生前は退魔師ですよ。」
臼井:「ぇええええ! ど、どういうこと!?」
鎌谷:「っ!? 銀治郎・・・本当なのか?」
薺:「あぁ、黙っていてすまない。」
環:「世間って狭いなぁ・・・。」
鎌谷:「昔の好(よしみ)で助けを・・・?」
薺:「その通りだ。」
臼井:「うわわ、うわわどうしよう!?」
環:「お、落ち着けって。」
臼井:「うぅ・・・凄く複雑。」
環:「現に俺だって千鶴だって無事だろ?」
臼井:「ねぇ、一鉄まで、同じ事言わないよね!?」
鎌谷:「おいおい、冗談はよせって。」
臼井:「うぅぅ・・・ご、ごめんなさい。こういう時
どんな顔をすればいいのかわからない・・・。」
環:「駄目だ・・・すっごい動揺してる。」
佐武:「迷った時は“どっちが正しいか”なんて考えては駄目です。」
臼井:「?」
佐武:「“どっちが楽しいか”で考えなさい。」
環:「どっちが・・・楽しいか?」
佐武:「私は今が楽しいですよ。
過去に縛られるのは窮屈ですから。」
薺:「隠していたことは、申し訳ないと思っている。
だが、今まで同じ時を過ごして来た事に偽りはない。」
鎌谷:「今を信じるか、過去を信じるか。」
臼井:「っ・・・。」
薺:「自分で考え、自分で決めてくれ。 後悔のないように。」
鎌谷:「・・・。」
薺:「どのような結果になったとしても
紫糸の八牙をこのままにしておく訳にはいかない。
この地に住まう妖怪や人の為に、私は・・・」
佐武:「その怪我で・・・?」
薺:「えぇ。
この私でも、何かの役に立つでしょうから。」
佐武:「・・・死にたがりですか。」
薺:「そうかもしれません。」
佐武:「はぁ・・・私の周りはそんな方ばかりですね。」
鎌谷:「ちょっとまて。」
臼井:「一鉄?」
薺:「ん?」
鎌谷:「俺がお前達の正体を知って怖気づくとでも?」
佐武:「そう、認識していましたが。」
鎌谷:「はんっ。 んな事言われちゃ
漢、鎌谷 一鉄の名が廃るってもんだ。
全力で協力させて貰うぜ。」
佐武:「暑苦しいのは嫌いじゃないですよ。」
鎌谷:「生きる勇気を持たないものは、 戦う前に消えていく。
そういうもんだろ。」
環:「おぉ、格好良い!」
臼井:「私も!」
薺:「千鶴?」
臼井:「私も一緒に行く。
銀治郎に助けて貰った恩を返してないもの。」
薺:「・・・二人とも、感謝する。 ぐっ。」
環:「さっきより顔色悪くなってないですか?」
佐武:「そうですね。榊の件を片付ける前に、
貴方の傷を癒す事が先決のようです。」
臼井:「おかしい、傷口は治り始めてるのに・・・。」
佐武:「女郎蜘蛛の毒が原因ですね。」
鎌谷:「毒か、厄介だな。」
佐武:「はい。ですからその為の治療が
早急に必要になるわけですが・・・。」
臼井:「解毒薬ですね。 すぐに用意し・・・」
佐武:「それだけでは無理です。」
臼井:「え?」
佐武:「毒の治療には特殊な薬草が必要なんですが。
・・・入手方法が難しいんですよ。」(わざとらしく困ったように)
環:「佐武さん、俺にも協力できることがあれば。」
佐武:「環さん。」(肩を鷲掴み)
環:「へ?!」
佐武:「・・・よくぞ言ってくれました。」
環:「嫌な予感しかしない・・・。」
佐武:「それと・・・、鎌谷さんでしたっけ。」
鎌谷:「俺か?」
佐武:「はい。ここの土地勘は無いに等しいので、案内役を。」
鎌谷:「あぁ、わかった。
っと言っても俺もそこまで詳しくないぞ。」
佐武:「大体の目安が分かれば十分です。」
臼井:「あ、案内役なら私が!」
佐武:「いえ、臼井さんは銀治郎の看病を。
怪我人を看るのは気配りの出来る女性が適任ですので。」
臼井:「・・・分かりました。」
佐武:「銀治郎、鎌谷さんを借りていきますよ。」
薺:「は、はい。・・・しかし、いいのですか?」
佐武:「・・・?」
薺:「此方から助けを呼んだとはいえ・・・。」
佐武:「あぁ、そのことですか。別に構いませんよ。」
薺:「佐武殿・・・。」
佐武:「私が此処へ足を運んだ時点で、了承を得たと思ってくださって結構です。
見返りのない事には、極力関わらない主義ですけどね。」
薺:「感謝、致します。」
<祠の中>
(散り散りになった体を引き摺り苦しそうにもがく)
榊:「あ"ぁ"・・・あ"、くる・・・し、や。 ぐる・・・しや。
愛し、き・・・貴方、様は・・・いづ、
わら わの・・・元へ、・・・のか。 あ"ぁ"あ"あ"・・・。」
(回想に入る)
男:「そういえば・・・。」
女:「どうなされました?」
男:「君には、名が無かったな。」
女:「・・・はい。」
男:「あぁ、嫌な事を思い出させてしまったな。」
女:「いいえ・・・。」
男:「三椏(みつまた)・・・、はどうだろうか?」
女:「え?」
男:「この地に多く咲いている花だ。
言霊は“永遠の愛”というらしい。」
女:「・・・っ。」
男:「気に入らなかったか・・・?」
女:「い、いいえ。大変うれしゅう御座います。」
男:「ん、泣いているのか?」
女:「う、嬉し泣きで御座います。」
男:「ならばよかった。 おみつ。」
女:「?」
男:「いつまでも微笑んでいてくれるか?
それだけで私はどれだけ救われるか・・・。」
女:「はい。 どのような生業か存じ上げませんが・・・。」
男:「すまない。」
女:「いいえ、いいのです。
お忙しいお役目で、さぞお疲れでしょう。」
男:「・・・。」
女:「ですが、この三椏の笑顔で癒されるのならば。
貴方様がお傍にいる限り、いつまでも。」
男:「私は、おみつと出会えた事を嬉しく思う。」
女:「・・・大変、愛おしゅう御座います、弥一(やいち)さま。」
(回想に終わる・崩れた体が徐々に再生していく。)
榊:「あ″あ″・・・あ″・・・はぁはぁ・・・。
まだ、まだ・・・終わって、な″い″。ぐぐっ。
己・・・退魔、師・・・憎い・・・憎い。
必ずこの手で・・・滅ぼして、やる!!!!!」
<一軒家>
(薺は 横になって少し落ち着いているが、毒の影響で苦しそうにしている。)
臼井:「今は妖怪だからって・・・。」
薺:「どう、した?」
臼井:「あの人、もともと名家の退魔師でしょ?
一鉄、大丈夫かしら・・・?」
薺:「・・・そんなに、心配か。」
臼井:「だって。」
薺:「千鶴。私も、同じだと言う事を、忘れてないか?」
臼井:「あ、そうだった!」
薺:「理解なんてものは・・・概ね願望に基づくものだ。」
臼井:「え?」
薺:「流れに身を委ねよ、何事にも流れが存在する。」
臼井:「どうしたの、急に?」
薺:「師からの受け売りだ。彼の事は、心配無用。
必要でない限り・・・無駄な殺生は好まない。」
臼井:「・・・。」
薺:「千鶴。」
臼井:「?」
薺:「君が信じる君を信じるんだ。 今は、それしかいえない。」
臼井:「う、うん。」
薺:「それと。 佐武殿は、無情に見えるかもしれないが、
ああ見えて根はお優しい方だよ。」
臼井:「あぁ・・・見えて?」
<森の中>
佐武:「・・・?」
環:「佐武さん、どうしました?」
佐武:「いえ、気のせいです。」
鎌谷:「・・・。着いたぜ。
水捌けが悪く、日の光も殆ど当たらない・・・」
環:「ん?」
鎌谷:「龍脈の流れ散る、崖の裂け目だ。」
環:「うあぁあっっと!?」(落ちそうになる)
鎌谷:「っと、気を付けろよ、坊主。」
環:「あ、ありがとう。」
鎌谷:「いいってことさ。」
佐武:「では、環さん。早速ですが取ってきて下さい。」
環:「えぇ?! せ、せめてどんなものか教えてくださいよ!?」
佐武:「・・・そうでした。
葉は表が青銅、裏が紅で八つに枝分かれしている草です。」
鎌谷:「それだけ特徴が出てれば、探しやすいだろ。」
佐武:「はい。」
環:「・・・もしかして、花弁の色は山吹色ですか?」
佐武:「そうです。」
鎌谷:「もう見つけたのか、早いな。」
環:「向こうに見えるのそうですよね、恐らく。」
佐武:「あぁ、あれです。 ですが少し距離がありますね。」
環:「俺の跳躍力でもちょっと難しい位置ですよ。」
鎌谷:「どうすんだ?」
佐武:「・・・環さん。」
環:「はい?」
佐武:「妖怪の姿に戻れますか?」
環:「勿論です。」
佐武:「では、お願いします。」
環:「分かりました。・・・っと。」
佐武:「ふむ、思ったとおりの大きさですね。
・・・では、鎌谷さんこれを。」
(ひょいと環を持ち上げて、鎌谷に渡す。)
環:「うわっ。」
鎌谷:「お?」
環:「な、何する心算(つもり)・・・」
佐武:「貴方、腕力ありますよね。」
鎌谷:「あぁ。 一応、怪力で有名だからな。」
環:「へ?」
鎌谷:「はぁん、なるほど。」
佐武:「察しの通りで。」
環:「ちょちょちょ、ちょっと待ってください!!」
佐武:「千十郎。」
環:「ひぃいい!? 投げる気ですか!?」
佐武:「(無視)飛べない鼬はただの鼬だ。」
環:「ちょ、ムササビと混同してません!?」
佐武:「鎌谷さん、お願いします。」
鎌谷:「分かった。 行くぞ坊主。」(ニヤリ)
環:「俺の意志は!?」
佐武:「え?」
鎌谷:「どっせい!!!!」(子動物を遠くに投げる)
環:「わぁあああぁああぁあああっ!!!」(向こう岸に消える)
佐武:「良く飛びますね。」(遠くを見て)
鎌谷:「これくらい、朝飯前だ。」(ドヤ顔)
<墓石近く>
常葉:「さて、この墓石(はかいし)をどうするか。」
縁:「紫糸の八牙は退治したんですから、
もう必要無いのでは?」
常葉:「そうもいかない。 この数のかざぐるまを見ろ。」
縁:「・・・。小さくはありますが、嫌な空気を感じますね。」
常葉:「つまり、そういう事だ。」
縁:「なるほど。」
子音槻:「影千代、戻ったわよ。」
常葉:「子音槻、何か分かったことは?」
子音槻:「榊が復活した原因はまだ掴めてないわ。」
常葉:「随分手古摺ってるね。」
子音槻:「ごめんなさい。 何かがおかしいのよ。」
常葉:「例えば?」
子音槻:「記憶が曖昧・・・みたいな感じかしら。」
常葉:「曖昧?」
子音槻:「忘れてる。若しくは、隠してたり誤魔化してたり。
それに近いものを感じたわ。」
常葉:「もう少し、上手い具合に引き出せなかったのか。」
子音槻:「(首を横に振る)」
常葉:「・・・う〜ん。」(考える素振り)
子音槻:「ねぇ。」
常葉:「ん?」
子音槻:「それとは別に、面白い話を聞いたんだけど。」
常葉:「どんな話だ?」
子音槻:「この地に大物妖怪が三匹も居るって。」
縁:「そんなに!?」
常葉:「・・・名は分かるか?」
子音槻:「三つ目の薺、元興寺の鎌谷、天狗の佐武。」
縁:「わぁっ! 影千代さま、これは手柄を立てる好機ですよ!」
常葉:「ちょっとまて・・・。」
縁:「か、影千代さま?」
常葉:「そいつら全員妖怪落ちしやがった奴等じゃないか!!」
子音槻:「退魔師の面汚しもいるわね。」
縁:「仙人(せんじん)様の逆鱗に触れたとお伺いしてましたが。
本当に居られたんですね。」
常葉:「・・・子音槻!!!」(くわっと)
子音槻:「なぁに?」(楽しそうに)
常葉:「居場所をすぐに探し出せ。私の手で滅する。」
<とある屋敷>
女:「弥一(やいち)様、弥一様。」
男:「ん?」
女:「その・・・お耳に入れたい大切なお話が。」(少し照れて)
男:「どうしたおみつ?」
女:「・・・。」
男:「ふっ、勿体ぶらずに申してみよ。」
女:「覚悟して下さいまし。」
男:「分かった。」
女:「貴方様との絆。・・・赤子を、授かりました。」
男:「っ!? 本当か!?」
女:「はい。(お腹を擦って)間違い御座いません。」
男:「・・・。」
女:「今でも小さき灯火を感じております。」(優しく微笑む)
男:「・・・っ。」
女:「・・・弥一様?」(少し不安になる)
男:「これは・・・。」
女:「産んでは・・・なりませぬか?」
男:「いいや。」
女:「?」
男:「おみつ。ありがとう。」(優しく抱きしめる)
女:「っ!」
男:「必ずや、健康な赤子を産んで欲しい。」
女:「・・・はい。」
男:「私は、とても幸せに思っているよ。」
女:「三椏も同じ気持で御座います。」
男:「いつも・・・」
女:「?」
男:「寂しい想いばかりさせて、申し訳が立たない。」
女:「そんな事御座いません。」
男:「?」
女:「貴方様が下さったこれを・・・」
男:「かざぐるま、か。」
女:「はい、こうやって肌身離さず持ち続けていれば
風は必ず、三椏の元で吹いてくださいます。」
男:「・・・。」
女:「それに、貴方様は、命を授けてくださいました。
これ以上何を求めましょうか。」
男:「何れ・・・。いや、そう遠くない時期に
羽を休めようと思っている。」
女:「っ! 本当ですか?」
男:「あぁ。 家族になろう。」
女:「っ、弥一様!!」(抱きつく)
男:「おっと、ふっ。」(微笑む)
女:「三椏は、三椏は・・・うれしゅう・・・御座いますっ。」(涙ぐむ)
男:「愛しているよ、三椏。 きっと守ってみせる。」
女:「・・・はい。」
<とある神殿>
秀久:「兄者、今帰りました。」
遥:「おかえり、秀久。お役目は終わったのかい?」
秀久:「えぇ、そんな事より。」
遥:「何か問題でも?」
秀久:「いいえ。 先程から影千代の姿が見当たらないのですが、
何処へ行ったかご存知ですか?」
遥:「あぁ・・・、影千代ならお父上の命でお役目に出たよ。」
秀久:「なっ、一人で!?」
遥:「勿論。」
秀久:「霊力は並外れてるとはいえ、あの無鉄砲さ。
一人で行かせるには早いのでは・・・。」
遥:「だからこそ、面白いんじゃないかい?」
秀久:「・・・兄者? 本気で仰っているのですか?」
遥:「ふっ、秀久も心配性だね。
人生に早すぎるも遅すぎるもないんだよ。
思い立ったその時が、真っ白なはじまりなんだ。」
秀久:「・・・しかし。」
遥:「お父上のお考えだ、何か思ってのことだろう。」
秀久:「・・・。影千代は何処へ向かったのです。」
遥:「“西の地にて、紫糸の八牙(ししのやつが)が甦りし。
早急に彼の地に出向き滅びを与えんことを”」
秀久:「女郎蜘蛛の元へ!?」
遥:「そうだよ。」
秀久:「如何様にして封術がと解かれたのですか。」
遥:「それを調べる為に向かわせたんだ。」
秀久:「・・・っその上、始末せよと?」
遥:「ふっ。 お父上は、何を企ていらっしゃるのかな。」
秀久:「兄者、笑い事ではすまされないぞ。
そのような所業、村人が許すはずが無い。」
遥:「おや。お役目より、村人の意志を優先するのかい?」
秀久:「そういう訳では。」
遥:「私達は退魔師だ、妖怪を滅するのは宿命だよ。」
秀久:「・・・あれは触れるべからずの妖怪。」
遥:「・・・。」
秀久:「昔、我が常葉家が見捨てようとした地に
六代目様の思惑で繁栄をもたらした、陽のモノノフです。」
遥:「ふむ。」
秀久:「滅するとなれば、再びあの地は捨て去られる事に・・・。」
遥:「秀久。」
秀久:「・・・はい。」
遥:「紫糸の八牙の物語を知っているかい?」
秀久:「ある程度ならば。」
遥:「そこに描かれているモノが全てとは、限らない。」
秀久:「・・・そこに、何が?」
遥:「陽と陰は常に対比している。何がきっかけで変わるか分からないモノ。」
秀久:「だから、ですか。」
遥:「(頷く)美しいモノには棘がある。」
秀久:「・・・。」
遥:「・・・その棘を如何に切り落とすのか。
影千代の帰りが楽しみだね。ふふっ。」(微笑する)
秀久:「・・・兄者?」(困惑)
<森の中>
(投げ飛ばして遠くに居る環とのやりとり)
鎌谷:「おーい、坊主。取れそうか!?」
環:『だ、大丈夫!』
佐武:「環さん。」
環:『は、はい!?』
佐武:「出来るだけ色味のいい物を選んで採取して下さい。」
環:『分かりました!』
鎌谷:「他のと、どう違うんだ?」
佐武:「簡単に言うと、“味が濃い”ので効果が出やすいんですよ。」
鎌谷:「ほう。」
環:『佐武さん!』
佐武:「どうしました?」
環:『あ、あの。 今気付いたんですけど。』
佐武:「何をです?」
環:『どうやって戻ればいいんですか!?』
佐武:「・・・あぁ。」(手をポンと叩く)
環:『わぁあ! 絶対何も考えてなかったって風ですよね!?』
鎌谷:「なんちゃらは崖から落とせって言うよな。」
環:『それちょっと違う!!』
佐武:「その案でいきましょう。」
環:『さ、流石の俺でも死にますよ!!』
佐武:「妖怪は意外と丈夫なので、大丈夫です。」
鎌谷:「といっても、俺でも死を覚悟する高さだな。」(崖下を見て)
佐武:「鎌谷さん。」
鎌谷:「ん?」
佐武:「お前はもう死んでいる。」
鎌谷:「・・・っ!」(はっと気付く)
佐武:「でなければどうやって妖怪になったんですか?
道場法師殿。」
鎌谷:「・・・よぉし、坊主。そっから飛び降りろ!」
環:『ひぃい!? やっぱり、止める人が誰も居ない!』
鎌谷:「妖怪だから、一回くらい逝っても問題ないぞ!」
環:『阿呆かっ!?』
鎌谷:「死者にたいする最高の手向けは、悲しみではなく感謝だ。」
環:『勝手に殺すな!!!』
佐武:「怒られてしまいましたね。」
鎌谷:「やれやれ。」(肩を竦める)
環:『兎に角、何か考えてくださいよ!』
佐武:「今日の環さんの突っ込みは激しいですね。」
鎌谷:「まさしく、鬼気迫ってるって所だろ。」
(背後から人が現れる)
常葉:「危機が迫っているのはお前達の方だ。」
佐武:「はぁ。」(溜息)
鎌谷:「ん、誰だ。」
常葉:「縁、こいつらだな?」
縁:「はい、元興寺の鎌谷、天狗の佐武
・・・もう一人見当たりませんが
間違い御座いません。」
常葉:「よし、・・・見つけたぞ、妖怪ども!!」
佐武:「ややこしい事になってきましたね。」
環:『佐武さん!? そっちで何かあったんですか?』
佐武:「環さん、暫くそのまま待機していてください。」
環:『は、はい!』
常葉:「ん? もう一匹居るのか?」
縁:「崖の下方から声が聞こえます。」
佐武:「・・・。」
常葉:「ふん、お前らに今日を生きる資格は無い。
私に出会ったことを後悔しろ!」(びしっと札を突き出す)
鎌谷:「ん?」
佐武:「どうしました?」
鎌谷:「あの家紋、常葉の退魔師じゃねぇか。」
佐武:「よくご存知で。」
鎌谷:「まぁ、長く生きてりゃ遭遇することもあるわな。」
常葉:「『解の印 式神召喚』」
佐武:「・・・貴方も、一癖ありそうですね。」
鎌谷:「それは、どうだろうな。 ははっ。」
常葉:「『陰・猛突の亥(もうとつのい) 参れ 亥澄箕』」
亥澄箕:「ふぅ。 御呼びかい? 千代姫ちゃん。」
常葉:「その呼び方やめろ。」
亥澄箕:「はいはい。」
縁:「相変わらずですね、亥澄箕さん。」
亥澄箕:「あぁ、狸吉。 元気そうで何より。」
縁:「はい!」
鎌谷:「どうやら、あっちはやる気みたいだがどうする。」
佐武:「出来れば、揉め事は避けたい所です。」
鎌谷:「そうだな。」
佐武:「最低限、採取したものは届ける方針で。」
鎌谷:「あぁ。」
亥澄箕:「・・・で? 影千代。」
常葉:「これからあいつらを始末する。」
亥澄箕:「うへぇ〜。 どうせ相手するなら美女がいいなぁ。」
常葉:「亥澄箕・・・?」(眼付け)
亥澄箕:「分かった分かった。」
常葉:「ったく。」
鎌谷:「・・・佐武。」
佐武:「はい。」
鎌谷:「天狗は空飛べるんだろ?」
佐武:「えぇ。」
鎌谷:「それじゃぁ、後の事は任せたぜ。」
佐武:「・・・意気投合しましたね。
貴方の心意気に感謝します。」
鎌谷:「ふっ。そりゃ、お互い様だ。」
佐武:「私も、少しばかりですが時間稼ぎしておきましょう。」(刀を抜く)
常葉:「ん?」
亥澄箕:「おや、何か仕掛けてくる心算か?」
常葉:「いや、待て。」
縁:「様子がおかしいですね・・・。」
佐武:「神無月に咲き乱るる銀杏(いちょう)
『百花繚乱(ひゃっかりょうらん)』」
常葉:「くっ!!」
縁:「花弁の目眩まし!?」
常葉:「逃げる気か! そうはさせない!
亥澄箕、行け。」
亥澄箕:「あいよ。」
鎌谷:「おっと。」
亥澄箕:「っ、あん?」
(行こうとして塞き止められる)
鎌谷:「お前の相手は俺だ。」
亥澄箕:「・・・ふぅん。」
鎌谷:「ふっ。」(余裕の笑み)
佐武:「では、後ほど。」
鎌谷:「あぁ。」
佐武:「ふっ。」(飛び降りる)
常葉:「しまった!」
縁:「おぉ、鴉の姿に戻って
飛んでいってしまいましたね。」
常葉:「暢気に見ている場合か!!」
縁:「わわぁ、申し訳御座いません!」
(飛び降りながら鴉の姿に変化して環の元へ向かう)
佐武:「っ。」(岩場に着地する)
環:「佐武さん! どうしたんですか?」
佐武:「厄介な相手が出てきました。」
環:「へ?」
佐武:「このまま銀治郎の所まで飛びます。
採取したものは何があっても離さない様に。」
環:「分かりました!」
常葉:「くっ! 亥澄箕、そのまま元興寺の相手を頼んだ!」
亥澄箕:「任された!」
常葉:「私は、あの鴉を追う! 縁。」
縁:「はいっ!」
常葉:「ここに残って仕合を見届けろ。」
縁:「畏まりました!」
常葉:「『解の印 式神召喚
陽・爽脚の午(そうきゃくのうま) 参れ 午瑳近(まさちか)』」
午瑳近:「っと。大筋は理解している。 早く乗りたまえ。」
常葉:「流石だ。 見失うなよ、午瑳近急げ!」
午瑳近:「仰せのままに。 はいやぁぁあ!」
常葉:「馬鹿者! それはこっちの台詞だ!」
縁:「お気をつけて!」
(鎌谷と亥澄箕を残して全員がその場を去る)
鎌谷:「さてと、・・・お相手願おうか。」
亥澄箕:「少しは楽しませてくれるんだろうな?」
鎌谷:「活殺自在 (かっさつじざい)、お前次第だ。」
亥澄箕:「へぇ。」
鎌谷:「力量の差を見せつけてやるよ。」
亥澄箕:「言ってくれるねぇ。 なら証明してもらおう、かっ!」(拳を繰り出す)
鎌谷:「っと、中々早い。」(横に避ける)
亥澄箕:「まだまだ、これからだ! はっ!」(拳)
鎌谷:「見切れるぞ。」(横に避ける)
亥澄箕:「せいやっ!」(拳)
鎌谷:「ふっ。」(踏み込む為に下に避けて)
縁:「踏み込んだっ!」
鎌谷:「脇がお留守だぜ! 『臥龍砕撃』(がりゅうさいげき)!」
亥澄箕:「ぐっ!!」
鎌谷:「もう一発!」(拳に気を溜める)
亥澄箕:「やら・・・」(ぐらつくが体勢を直して)
鎌谷:「『羅刹・・・っ!」
亥澄箕:「せるかっ!」(相手の胸倉を掴んで)
鎌谷:「なっ!?」
亥澄箕:「よぉおおお!」(頭突き)
鎌谷:「ぐぁっ!!」
縁:「頭突きしたっ!?」
亥澄箕:「まだ終わっちゃいない、ぜ! オゥラ!」(腕を振りかざす)
鎌谷:「くっ、しまっ・・・」
亥澄箕:「『狗鷲』!!」(相手の顔面を鷲ずかむ)
鎌谷:「づっ!」
亥澄箕:「頭蓋骨まで叩き割る!」
鎌谷:「く、クソがッ!!」
亥澄箕:「『投擲地割』(とうてきちかつ)!!」
鎌谷:「っんぐ! ふんっ!」(両腕を掴んで受身を取る)
亥澄箕:「な、受身だと!?」
鎌谷:「おらぁあ!」(腹にキック)
亥澄箕:「う゛ぉっ!」
鎌谷:「飛んでけや、でりゃあぁああああ!」
亥澄箕:「どわっ!!」(吹っ飛ぶ)
縁:「あの体勢から・・・巴投げを!? お二人とも凄い。」
亥澄箕:「がはっ! ・・・げほっ、ごほっ。」(少し遠くにズサーッと吹っ飛ぶ)
鎌谷:「ふぅ・・・。(立ち上がる)
危ねぇ、危ねぇ。」
亥澄箕:「ぺっ。(吐きつける)
チッ、互角か?」
鎌谷:「はっ、どうだろうな。」
亥澄箕:「ったく、野郎と組み合う羽目になるなんて。
全く持って損しかねぇ。」
鎌谷:「野郎で悪かったな。」
亥澄箕:「俺は美女相手のほうが燃えるんだ。」
鎌谷:「はん、減らず口を。」
亥澄箕:「うるせぇ。 テメェを叩きのめす!」
鎌谷:「遠慮しなくていいぜ。 もっと熱くなれよ。」
亥澄箕:「けっ、その余裕へし折ってやる。」
鎌谷:「ふっ、試してみるか?」
亥澄箕:「・・・いけすかねぇな。」
鎌谷:「来いよ。」(指をくいっとやる)
亥澄箕:「言われなくても、はぁっ!」(拳を繰り出す)
鎌谷:「っ、まだ足りないぞ!」(受ける)
亥澄箕:「『疾風鋭脚』(しっぷうえいきゃく)! せいっ!」(普通の蹴り)
鎌谷:「づっ。」(受ける)
亥澄箕:「せいやぁあ!」(追撃回し蹴り)
鎌谷:「っ、良い蹴りだ。」(受けきる)
亥澄箕:「チッ、何様だよ。」
鎌谷:「さあな! 次はこっちの番だ。」
亥澄箕:「受けて断つ!」
鎌谷:「『牙狼』(がろう)・・・」(腕を大きく振りかぶる)
亥澄箕:「単純な技だ!」
鎌谷:「派手ならいいってモンじゃないぞ!
『・・・天 衝』(てん しょう)』
おらぁああああ!」
亥澄箕:「ぐぅっっ!!!」(ズサーっと後ろに押される)
縁:「受け止めた・・・けど。」
鎌谷:「踏ん張りが足りないぞ。」
亥澄箕:「野郎・・・。」
鎌谷:「大分後ろに下がっちまったな。」
亥澄箕:「っ! どんだけ馬鹿力だよ。 この俺が押されるなんて・・・。」
鎌谷:「ふっ、本気はこんなもんじゃないぜ?」
縁M:「まさか、亥澄箕さんが遊ばれてる?」
亥澄箕:「ふん、すぐに終わらせてやらぁ。」
鎌谷:「やれるもんならな。」
亥澄箕:「速攻で場外に飛ばす!
そして、二回死ね! はぁあ。」(構える)
縁:「あれは!」
鎌谷:「一点集中。 『霞蒼眼』(かすみそうがん)」
亥澄箕:「『獅子の・・・』(踏み込む)
だぁあああああああ!」(相手に近付く)
鎌谷:「っ! 一瞬で近くにッ。」
亥澄箕:「『咆哮』ッ! せっぇえい!」
鎌谷:「んぐぅっ!」(衝撃に耐える)
亥澄箕:「なに、吹き飛ばねぇ!!? 耐えただと!?」
鎌谷:「もう終わりか? フッ。」(にやりと笑う)
亥澄箕:「っ!! 『裏鋭・・・(りえい)」
鎌谷:「甘い! 『鎌牙』(れんが)」(足払い)
亥澄箕:「どわっ!」
鎌谷:「まだまだぁ!! 『天狼』(てんろう)!!』」(蹴り上げる)
亥澄箕:「がはっ!」
鎌谷:「これで終いだ!」
亥澄箕:「っ、これじゃ受身がとれねぇ!」
鎌谷:「それじゃあな! 『滅』(めつ)っ!!!!」(両拳で振り落とす)
亥澄箕:「畜生がっ!!」
鎌谷:「だらぁあああ。」(叩き付ける)
亥澄箕:「ぐわぁあああああああッ!!」(ぱさっと紙に戻る)
縁:「亥澄箕さん!!!」
鎌谷:「(手を払う)ふぅ、中々面白い仕合だったぜ。」
縁:「ひっ。」
鎌谷:「っと、紙に戻っちまったな。」(落ちた紙を拾う)
縁:「あっ。」
鎌谷:「念のために破っておくか。」(ビリっと破る)
縁:「わわっ、亥澄箕さんの印が・・・。」
鎌谷:「・・・で、ちっこいの。」
縁:「は、はい!?」
鎌谷:「ちょっくら面かしてくれよ。」
<とある屋敷・夜>
男:『みつまた・・・。』
女:「っ・・・。(目が覚める)
寝てしまって居たのね・・・。」(すっと起き上がる)
男:『お・・・みつ。』
女:「・・・、弥一様?」
男:『おみつ。』
女:「いらっしゃったのかしら?
こんな夜更けに、珍しい事もあるのね。 ふふっ。」
男:『おみつ、いないのか?』
(少し歩いて)
女:「弥一様、おかえりなさいま・・・」
退魔師:「(喰い気味)見つけたぞ!!」
女:「っ!?」
退魔師:「やはり、此処におったか。 毒婦がっ!」(腕を掴む)
女:「きゃぁ、やめてください。 何なのですか貴方は!」
退魔師:「何だと思う?」
女:「っ! 突然、人の家に押し入ってきて、
無礼だと思わぬのですか?!」
退魔師:「無礼? 無法者に尽くす礼などない。」
女:「・・・どういうことです?」
退魔師:「弥一様が・・・。」
女:「弥一っ!? 弥一様の身に何かあったのですか!?」
退魔師:「何か、だと?」
女:「?」
退魔師:「この毒婦が。 良くも若を誑かしてくれたな!!」
女:「若を誑かす? 一体何の事です、
きちんと説明して下さいまし。」
退魔師:「己が犯した悪行を理解しておらぬのか。」
女:「・・・どなたか存じ上げませぬが。
斯様な仕打ちをされる謂れは御座いません。」
退魔師:「・・・気付いていないのか?
それとも、戯言か?」
女:「・・・出て行って貰えませぬか。
弥一様は不在で御座いま・・・」
退魔師:「よいかっ!」(ぐいっと近づける)
女:「っ!?」
退魔師:「若・・・、弥一様は
退魔師の本家である、常葉家五代目統領、
常葉 掩蔵(えんぞう)様のご子息だ。」
女:「あのお方が、退魔師?」
退魔師:「お前は、若と契りを交わしたのか?」
女:「ち、契り?」
退魔師:「それとも、飼われていたのか?」
女:「いいえ・・・、愛し合っておりました。」
退魔師:「馬鹿を言うなっ!」(蹴る)
女:「ぎゃっ!!(風車が吹っ飛ぶ)
か・・・、かざぐるまが・・・っ!」
退魔師:「っ! 何故これを持っている。」
女:「くっ、それは、弥一様が、下さった大切な・・・」
退魔師:「このかざぐるまは、我が常葉の家紋の象徴だ。
お前が持っていて良いものではないっ!」(拾う)
女:「っ、返してください!」
退魔師:「・・・良く聞け!!」
女:「っ!」(びくりとする)
退魔師:「若はお亡くなりになられた。」
女:「・・・っ! 弥一様が・・・亡くなられた?
嘘、嘘と言ってくださいまし!! うぅ・・・。」
退魔師:「・・・人のような芝居をしおって。 同情でも買おうというのか。
あのお優しい若もこれに騙されて・・・。」
女:「あぁ・・・うぅ。(泣いている)」
退魔師:「若は、若は・・・っ!
妖怪との禁忌を犯し、五代目様の逆鱗に触れ
退魔師である我が常葉の汚名を返上するために、命を絶たれた。」
女:「そ、そんな・・・うぅ。 あぁああああっ!」
退魔師:「これも、全て妖怪の仕業・・・。」
女:「弥一、さ、ま・・・うぅっ!」
退魔師:「若は妖怪に殺されたも同然だ。」
女:「っ、弥一様を、殺した妖怪とは、一体何者なのです!」
退魔師:「くっ・・・はははっ!! 笑わせる。」
女:「何が、可笑しいのです?」
退魔師:「その妖怪なら、私の目の前に居るではないか。」
女:「え?」
退魔師:「それとも、お前は自身が人だとでも?」
女:「三椏には、記憶が御座いません。」
退魔師:「記憶が無いだと?」
女:「それ故、殿方が・・・言われている意味が・・・。」
退魔師:「なら、思い出させてくれる。
お前の正体を、なっ!」
(掴んでいた腕を刀で切る)
女:「きゃぁああああっ!!
あっ、あぁ・・・っ。う、腕が・・・。」
退魔師:「見てみろ。」
女:「くっ・・・はぁ、はぁ。
(自分の腕を見てドロドロと再生していく様子を見て)
ひっ・・・も、元に戻って・・・。」
退魔師:「これで、分かったか。
お前は、生前 子を産めずに亡くなり、
その怨念で生まれた妖怪。 女郎蜘蛛だ。」
女:「っ!?」
退魔師:「私は、退魔師。 お役目を果たす為、
そして、若の無念を晴らす為、
お前を始末しに来た。」
女:「や、弥一様なら、救ってくださる筈・・・っ!」
退魔師:「居もしない人に何を祈る!?」
女:「あんなにも、
三椏の事を愛おしく思ってくださって居りました。」
退魔師:「若も退魔師だ。
お前が妖怪だと知ったら私と同じ事を行うだろう。」
女:「そ、そんな事ございませ・・・」
退魔師:「(遮る)問答無用っ!!」(ざくっと切る)
女:「ぎゃぁああああ!?」
退魔師:「・・・はぁ、はぁ・・・。
人と妖怪の恋沙汰は、所詮夢物語に過ぎぬ。」
榊:「・・・っ。」(ピクリと動く)
退魔師:「せめてあの世では・・・。」
榊:「あ"あ"・・・ぁ"・・・。」
退魔師:「っ、なに!?」
榊:「くっ、うぅ。」(のっそりと立ち上がる)
退魔師:「仕留め損なねたのか・・・」
榊:「赤子が・・・、また、灯火が・・・消えてしまっ・・・た。」
退魔師:「赤子を身籠っていた、だと?」
榊:「わらわ、は・・・赤子を産みたかっただけ。」
退魔師:「・・・っ!」
榊:「ただ・・・純粋に愛し合っていただけ・・・
幸せになりたかっただけ・・・。 あ″ぁ″っ!」
退魔師:「妖怪の姿に戻っていくっ!」
榊:「あぁ・・・あぁああああっ・・・!!!」
退魔師:「正体を現したな、女郎蜘蛛!!」
榊:「わらわは、母になりたかった・・・。
なのに、それだけなのにっ!! おのれええええええええっ!!」
退魔師:「ぐわぁああっっ!!」
榊:「わらわが妖怪だからか! 弥一様が退魔師だからか!!
何故叶わぬ!! あのお方はもうおらぬ!! 赤子も失った!
全部っ!! 全て、全て退魔師のせいだ!!」
退魔師:「ぐっ、記憶が戻って、箍(たが)が外れたのか?!」
榊:「憎い・・・あ"ぁ"あ"あああああっ!!
憎い憎い憎い憎いっ! なぜ、何度も何度も邪魔をする!!」
退魔師:「こ、これでは手に負えんっ!」
榊:「退魔師っっ!!!!!! 許さぬぞ!!!!
しねぇえええええええええ!!!」」
退魔師:「ほ、封呪をおこな・・・」
榊:「生きては返さんっ!!」
退魔師:「ぎゃぁああああああああああああっ!!」
<家屋の中>
臼井:「さ、銀治郎。 これを飲んで。」
薺:「あぁ。(薬を飲む)」
佐武:「どうですか?」
薺:「・・・! これはっ・・・」(苦しいのが段々と和らいでいく)
環:「あ、顔色が・・・。」
臼井:「良かった! 佐武さんに、千十郎。
ありがとうございます!」
薺:「私からも礼を。お二方、感謝致します。」
環:「治ってよかった。」
佐武:「銀治郎。」
薺:「はい。」
佐武:「先程も伝えた通り
スグに動き出さなければなりません。」
薺:「・・・準備は整っております。」
臼井:「大丈夫なの?」
薺:「あぁ、薬のおかげですっかり毒気も抜けた。」
臼井:「そう・・・。」
薺:「(頷く)今は、悠長に事を構えている余裕は無い。」
環:「常葉の退魔師が追って来てるんでしたっけ。」
佐武:「そうです。」
薺:「それに、一鉄の事も気がかりだ。」
佐武:「彼の事は放っておいても大丈夫でしょう。」
臼井:「え?」
薺:「信用してくださってるんですね。」
佐武:「えぇ、色んな意味で頼りにしてますよ。」
環:「佐武さん、何か知って・・・」
常葉:『妖怪共っ、出てこい! さもないと家屋ごと燃やすぞ!』
臼井:「っ!」(びくり)
環:「大丈夫。」
臼井:「う、うん。」
佐武:「一先ず外に出ましょう。」
薺:「そうですね。」
臼井:「(頷く)」
環:「分かりました。」
(外に出る)
常葉:「ご苦労だった。」
午瑳近:「いつでも呼んでくれたまえ。」
常葉:「『封の陰 式神返還
陽・爽脚の午(そうきゃくのうま) 戻れ 午瑳近』」
佐武:「おや、お一人ですか。」
常葉:「そうだが?」
薺:「・・・常葉 影千代。」
常葉:「ん?」
薺:「三兄弟の末子であり長女。 霊力は上の二人を上回るも
経験不足は否めない。」
常葉:「くっ、一言多いぞ。 この妖怪が!!」
薺:「これは失礼。」
佐武:「貴女は私たちに何用ですか?」
常葉:「私の正体を知って尚、白を切るとは・・・、
当然、お前たちを始末しに来たに決まってるだろう。」
佐武:「それにしては、事を構えるようには見えませんね。」
常葉:「私は常葉の人間だぞ。
妖怪と見ちゃすぐさま飛びかかる
久我や篁(たかむら)の連中と一緒にするな。」
臼井:「この女の人、やっぱり、凄い退魔師なんだ。」
環:「うん。 浅葱の人が一番平和に見える。」(ほんわかした女性を思い浮かべる)
臼井:「え?」
佐武:「彼女は特殊です。」
環:「そ、そうですよね・・・。」
薺:「それで・・・?」
常葉:「ふんっ、お前たちの様な大物妖怪が集まって
一体何を企んでいるんだ?」
薺:「企むとは、人聞きが悪い。」
常葉:「なら、理由を聞かせて貰おう。」
佐武:「先程は、問答無用で掛かってきたのにですか。」
常葉:「一々揚げ足とるな!」
佐武:「理由を聞いてどうするんです。」
常葉:「言うのか、言わないのか! はっきりしろ。」
佐武:「簡単に教えるほど親切に見えますか?」
常葉:「減らず口をっ!」(札を構える)
薺:「『雪鏡水仙・・・」(鞘に手を添えて構える)
常葉:「『解の印 式神召喚 陰・・・」
薺:「(喰い気味)『閃華』っふ!」(居合)
常葉:「ごうっ!」
環:「早いっ!」
薺:「動くと、首が落ちますよ。」
常葉:「くっ。」(悔しい)
(喉元に刀を突き付けられて、詠唱が止まる)
薺:「式神を付き従えず、一人で挑みに来るのは
些か無謀が過ぎるのでは?」
臼井:「銀治郎が刀を抜いた・・・。」
環:「え、そんなに珍しいこと?」
臼井:「・・・うん。私も初めて見たもの。」
環:「そうなんだ。」
薺:「少し前に、式神の気配が消えたようですよ。」
常葉:「亥澄箕か? それとも縁か?」
薺:「ご自身の、です。」
常葉:「亥澄箕か。 ちっ、あいつも口ばかりだな。」
佐武:「貴女が此処へ来たのは・・・」
常葉:「ん?」
佐武:「紫糸の八牙が目的ですね。」
常葉:「それが、どうした。
その妖怪の始末はさっき終わらせてきた。」
薺:「っ!!」
環:「え、じゃぁこの話は解決したってことですか?」
佐武:「・・・いえ。」
臼井:「嘘でしょ?」
環:「千鶴・・・?」
臼井:「本当に殺しちゃったの?」
佐武:「臼井さん。」(肩に手を置く)
臼井:「?」
佐武:「榊はまだ死んでいません。 安心してください。」
常葉:「何を言っている。 間違いないくこの手で・・・」
薺:「御冗談を。」(刀先を向け直す)
常葉:「っ、冗談を言ってるように聞こえるのか?」
佐武:「それは、どうでしょうね。」
常葉:「・・・なに?」(訝しげに相手を見る)
佐武:「私を疑う前に、
そこに居る式神に確認してみたらどうです。」
常葉:「・・・子音槻、ばれてるぞ。 出て来い。」
子音槻:「ふぅん。気付かれていたのね。」
常葉:「この天狗の話は本当なのか?」
子音槻:「えぇ。残念だけど本当の事よ。
紫糸の八牙は“生きて”いるわ。」
臼井:「良かった・・・。」
常葉:「詰が甘かったか。」
子音槻:「そういう訳ではないんだけど。」
常葉:「なんだ、はっきり言え。」
子音槻:「何かに護られてるみたい。」
常葉:「どういうことだ?」
子音槻:「もっとも。」
常葉:「?」
子音槻:「この場に居る全員が・・・
偽りを抱えているのは確かよ。」
臼井:「ぁ・・・。」
佐武:「『封の印 式神返還』」
常葉:「何をっ!」
佐武:「『陽・策詞の子 戻りなさい 子音槻』」
子音槻:「っ!!」
常葉:「こんの天狗っ・・・いや、浅葱 槙黎!!
退魔師の面汚しめが、もう許さん!!
『陰・噛刃の卯 参れ 卯戯』」
卯戯:「へいへぇええいい!!」(勢い良く飛び出す)
薺:「っと。 召喚術は継続中でしたね。」(後ろに避けて衝撃を回避する)
常葉:「印が生きている限りはな!」
臼井:「兎の式神?」
薺:「(頷く)彼は見た目に騙されると痛い目を見るよ。」
卯戯:「シュッシュッシュッ(素振り)
姉御っ! お呼びですか!」
常葉:「卯戯、お前の出番だ。」
卯戯:「ひゃっほぉ〜!!
シュッシュッ(素振り)」
佐武:「環さん。」
環:「はい!」
佐武:「式神の相手をお願い出来ますか。
日頃の成果を見せるときです。」
環:「分かりました!」
常葉:「『天より授かるは 風光明媚の如し清弓
光芒なる一閃の破激(はげき)は 一騎当千
我が名は 常葉 影千代
仙人の血統により 契りを受け継ぎし者
参れ 天破魔弓(あまのはまゆみ)』
さぁ、私の相手は誰だ?」
薺:「千鶴、私の後ろに隠れていなさい。」
臼井:「う、うん。」
佐武:「銀治郎。」
薺:「はい。」
佐武:「ここは、私が。」
薺:「そうは行きません。」
佐武:「いえ。是非、私に。」(目の奥が光る)
環M:「目が光ったっ!?」
佐武:「少し、試したい事があるので。」
臼井:「試したいこと?」
佐武:「えぇ。」
薺:「・・・分かりました。」
佐武:「助かります。」
常葉:「先ずはお前か! 直ぐに終わらせてやる。
はぁっ!!」(矢を放つ)
佐武:「ふっ!」
臼井:「叩き切った!」
常葉:「むっ!」
薺:「流石ですね、曇り一つ無い太刀筋。」
佐武:「狙いは正確ですが、それ故打ち手が単純過ぎます。」
常葉:「今のは小手調べ。戦は始まったばかりだ。」
<墓石前>
鎌谷:「はぁ〜ん。」(何かに納得した様子)
縁:「あ、えっと。
この地に関わる常葉の伝承は是くらいです。」
鎌谷:「お偉いさん方も何を考えているんだか。」(ボソッ)
縁:「へ?」
鎌谷:「いや、こっちの話だ。」
縁:「は、はぁ。
・・・そういえば、影千代さまもこの墓石に
何かしようとしてましたけど・・・。」
鎌谷:「そうなのか?」
縁:「はい。 どうするおつもりです?」
鎌谷:「んなことより、ちっこいの。」
縁:「?」
鎌谷:「俺が頼んだとは言え、
お家の内情まで話しちまって平気だったのか?」
縁:「あぁ、その事でしたら。
必要以上には喋れないようになっているので
縁から答えが出ることはありません。」
鎌谷:「へぇ。 敵対している妖怪に、でも?」
縁:「勿論です。 退魔師の中では、
妖怪と契りを交わして、
悪意ある妖怪を退治する方々もいますから。」
鎌谷:「ふむ。」
縁:「常葉家くらいですよ。
そういった事柄が見られないのは。」
鎌谷:「まぁ、いいや。 これからもう一仕事ある。
ついでだから手伝ってくれよ。」
縁:「縁で宜しければ。」
鎌谷:「お、おう。」(意外そうに)
縁:「へ?」
鎌谷:「・・・ちっと信用し過ぎじゃないか?」
縁:「ふふっ。これでも、妖怪を見定める目は御座います。
信用してるのでは無く、危害が無いと分かっているので
お手伝いさせて頂くんですよ。」
鎌谷:「そりゃ、助かる。」
<家屋前>
常葉:「卯戯、行け!」
卯戯:「へいへい! 姉御!
シュッシュッシュッ!」
環:「相手は俺が!」
卯戯:「チビ助、掛かって来いよぉ!
ホラホラホラ! シュッシュシュッ!」
環:「どう見たってお前の方がチビだろ!」
卯戯:「式神を見た目で判断するんやない、チビ!」
環:「俺は、妖怪だけど
その言葉を、そっくりそのままお前に返す!!」
臼井:「あの式神、意気衝天(いきしょうてん)ね。」
薺:「あ、あぁ。」
卯戯:「子供の純粋な目は、誰よりも正確なものを見抜くんやで!」
佐武:「自分で子供と言ってしまってますね。」
臼井:「ははは・・・。(苦笑)」
常葉:「遊んでないで、早くしろっ!」
卯戯:「へいっ! 姉御!
シュッシュッシュ!」
環:「・・・ん? 素手で戦うのか?」
卯戯:「ちっちっち。 甘いな。
・・・チビ助。」
環:「ん?」
卯戯:「わいの名を、言うてみぃいやぁあ!!」
環:「しらんわぁっ!!!!」(怒)
卯戯:「あ〜! 何で知らんのやぁあ!
おまっ! オイっ、なんなら教えちゃる。
泣く子も黙る噛刃の卯戯様とはわいのことや!
っとぉ!」
(身の丈以上の斧を取り出す)
環:「でかっ!?」
臼井:「凄い、身の丈以上もある斧を軽々と。」
卯戯:「さぁ、狩りつくしたるで!!」
環:「来いっ!」
卯戯:「てめぇの血は何色だぁーーーーっ!!
でりゃあああ!」(大きく薙ぐ)
環:「うわっっと!」(後ろに飛んで回避)
卯戯:「切り刻まれろ!
『嵐巻廻狼(らんけんかいろう)』
そぅれえええ!」(勢いで斧を回転させる)
環:「いぃいいぃ!?」
臼井:「回転技!?」
薺:「あの、得物の長所を最大限に活かしてるね。」
環:「くっ、思ってた以上に動きが早い。」
佐武:「油断は禁物ですよ。」
環:「はい!」
卯戯:「っとたぁ。(斧を担ぎなおす)
よう避けたな。」
環:「是くらい!」
卯戯:「せやけど、休む暇は無いで! チビ助!
でぇええい!!」(振り下ろす)
環:「づっ! 重いっ!」(受ける)
卯戯:「ニィ(ニヤリと笑う)
わいの魂が篭っとるからな!」
環:「押し返す!! うぐぐっ、てやぁあ!」(押し変えす)
卯戯:「っうわ!?」
環:「『疾風迅雷(しっぷうじんらい)』!」
卯戯:「くるかぁっ!」
環:「『突槍(とっそう)』!」
卯戯:「消えた!? っちゅーことは・・・。」
環:「せやぁあ!!」(背後から切り込む)
卯戯:「後ろや、っとぉ!! ははっ!」(斧の柄で受ける)
環:「っ、柄で受けたっ!」
卯戯:「ひゅ〜♪ 早いなぁ!」
環:「まだまだ! 『轟堕(ごうだ)』 でぇい!」 (両刃を使い渾身で叩きつける)
卯戯:「ぐぅっ。」(受けて鍔迫り合い)
環:「力技なら負けないぞ。 はぁあ!」(押し切る)
卯戯:「っわ! しまった、体勢がっ!」(少しよろける)
環:「今だッ! ふっ!」(足払い)
卯戯:「どわっと!?」
臼井:「転ばせたっ!」
環:「油断大敵っ! 『弁天・・・(べんてん)』」
常葉:「ったく、私の手を煩わすな!」
卯戯:「姉御っ!」
臼井:「千十郎っ!」
常葉:「『装填・蒼芒羽々矢(そうこうのはばや)』」
環:「しまった!」
常葉:「てぇい!」(矢を放つ)
佐武:「『一閃耀(いち せんよう)』 はっ!」(切り落とす)
常葉:「っ!」
環:「佐武さん!」
常葉:「また邪魔を!」
佐武:「一対一の仕合に、横槍は関心しませんね。」
常葉:「くっ、『装填・焔瞬(えんしゅん)の・・・」
環:「ど・・・」
卯戯:「わわっ!?」
環:「っっせい!!」
臼井:「あ、こっちに投げ飛ばされて・・・」
常葉:「『羽々矢(はばや)・・・』」(構える)
卯戯:「うわぁああああっ!?」(飛ばされてくる)
常葉:「卯戯!?」
卯戯:「あべしっ!?」(常葉に衝突)
常葉:「うわっああ!」
(二人でその場に倒れこむ)
環:「ふぅ、(手をはたく)
いい具合に飛ばせましたね。」
常葉:「こらっ! 卯戯、お前が邪魔してどうする!」
卯戯:「す、すんません姉御っ!」
常葉:「いいから早くどけ!」
佐武:「・・・、これは好機です。」(心の中では凄く喜んでいる)
常葉:「へっ?」
卯戯:「ひぃ!?」
佐武:「『槐樹(えんじゅ)に乞う
瑶林瓊樹(ようりんけいじゅ)の如し咲き乱れ
鋭利なる破邪より護りたもう・・・』」
常葉:「早くしろ!」
卯戯:「わわっ!」
常葉:「んっ!」(退かす)
佐武:「『護坂H樹(ゴリョクバンジュ) 発 (ハツ)』」
卯戯:「うぐぐっ。」
常葉:「っ!! 体が、動かない・・・。
何だ、これは! くッ。」
臼井:「あれ、止まった。」
佐武:「さて、この式神には・・・」
卯戯:「ひぃい!?」
佐武:「取り合えず消えて貰いましょう。」
卯戯:「姉御っ! ワイのこと怒らんといて!」
常葉:「怒るわっ! この役立たず!!」(怒)
佐武:「『封の陰 式神返還 陰・噛刃の卯(ごうばのう)』
卯戯:「次こそは、月に変わっておし・・・」
佐武:「(遮る)『戻りなさい 卯戯』」
卯戯:「ふぁっ!?」
臼井:「・・・何か言いかかってたけど。」
環:「き、気のせい気のせい。」
佐武:「モノは試してみるものですね。」
薺:「あの術は?」
佐武:「生前、契りを交わしていた妖狐が使用していた術です。」
薺:「あぁ・・・確か、九尾の。」
佐武:「はい。媒体がいないので不可能だと思っていたのですが
仕組みさえ理解していればいけるようですね。」
環:「媒体ってもしかして、菖蒲の事ですか?」
佐武:「そうです。」
常葉:「人様の、式神を勝手に・・・、
一体、何なんだっ!」(動けずまま)
佐武:「その問いに答える義理は、こちらにありません。」
常葉:「くっ。」
佐武:「ですが、何を企んでいるかくらいはお話出来ます。」
常葉:「ふっ。なら、話して貰おうか。」
佐武:「紫糸の八牙を“救い”に行くんですよ。」
常葉:「は? 如何かしてるんじゃないか?」
佐武:「はぁ(溜息)何も分かってないんですね。」
常葉:「・・・?」
佐武:「いいでしょう。 貴女は暫く此処で・・・」
臼井:「待って。」
薺:「千鶴・・・?」
臼井:「待ってください。佐武さん。」
佐武:「どうしました?」
臼井:「彼女も、連れて行きましょう。」
常葉:「なっ!?」
環:「え!? 連れてくって・・・本気か?」
佐武:「・・・。」
臼井:「お願いします。」
薺:「私は、良い案だと思いますが。」
佐武:「・・・そうですね。 お嬢さん。」
常葉:「むっ。」
佐武:「貴女が、何をしようとしたのか、見せて差し上げます。」
常葉:「そんなもの・・・」
佐武:「環さん。」
環:「はい。」
佐武:「この方の見張りを。」
<祠の前>
榊:「う"ぅ・・・はぁ、はぁ。
許さぬ、許さぬぞ!!!
この恨み果たすまでは、誰一人として逃がさぬ!
退魔師めっ! はぁ、はぁ・・・。」
(入り口で中の様子を伺う)
臼井:「・・・(唾を飲む)」
環:「此処にも、かざぐるまが沢山ある。」
常葉:「ふんっ。」
(佐武と薺は少し後方にいる)
佐武:「さぁ、行きましょう。」
薺:「佐武殿。」
佐武:「はい。」
薺:「無くしたモノを取り戻すことは出来ませんが、
忘れたモノなら思い出せますよね。」
佐武:「・・・自分で」
薺:「?」
佐武:「自分をしまいにしない限り、
きっと本当に遅いことなど無いんですよ。」
鎌谷:「そうだぜ。」
環:「あっ!」
臼井:「一鉄っ!
どこ行ってたの、心配したんだよ?」
薺:「戻ったのか。」
鎌谷:「あぁ、遅くなったな。」
常葉:「っ縁はどうした!」
鎌谷:「ちっこいのなら、途中で消えたぜ。
お前さんの霊力が途切れたんじゃないのか?」
常葉:「くっ、あの時の術で・・・。」
鎌谷:「・・・、銀治郎。」
薺:「・・・。」
鎌谷:「過去を悔やんでばかりじゃ前に進めない。」(肩に手を置く)
薺:「・・・一鉄。」
鎌谷:「(頷く)忘れたもん、取り戻すぞ。」
佐武:「さぁ、行きましょう。」
<洞窟の中>
(榊は少し疲れた様子で)
榊:「今日は、本当に・・・客が多い。」
佐武:「貴女が紫糸の八牙、榊ですね。」
榊:「ふん。」
環:「なんか、想像してたのと・・・。」
薺:「違ったかな?」
環:「はい。」
臼井:「榊・・・。」
榊:「おや、見た顔もいるではないか。ふふふっ。
揃いも揃って・・・何をしに来おった。」
常葉:「もう一度お前を・・・」
鎌谷:「おっとっ。」
常葉:「むぐっ。」
(口に札を貼られて封じられる)
鎌谷:「嬢ちゃんは、ちょっくら黙ってな。」
榊:「お主はっ・・・!」(段々と怒りがこみ上げてくる)
常葉:「むぐー!!」
榊:「・・・退魔師!! くくっ
ははははっ!! そちらから再び出向いてくれようとは!
今こそ無念を晴らすときっ!」
佐武:「環さん、この方をお願いします。
今死なれては此方も目覚めが悪いので。」
環:「分かりま・・・」
常葉:「んぐー!!」(後ろに目をやりながら)
榊:「しねぇええっ!!」
鎌谷:「っと。」(弾く)
榊:「くっ!」
鎌谷:「そう、焦り成さんな。」
榊:「ええい! 邪魔をするな!!」
佐武:「紫糸の八牙。」
榊:「お主も邪魔を・・・っ!」
佐武:「(喰い気味)話し合う気は、在りませんか?」
榊:「・・・話だと? する事に何の意味が?
わらわがその退魔師を殺せば全て丸く納まる。」
常葉:「っ!」
佐武:「今の貴女には、この退魔師を殺すどころか、
怪我一つ負わせることは出来ません。」
榊:「なに?」
佐武:「完全に復活出来ているわけでは無いでしょう。
無理をすれば、元に戻れなくなりますよ。」
榊:「お主がわらわの何を知ってると言うのだ。
これ以上阻むと言うのなら、容赦はせぬぞ!
はぁあ!」(糸を飛ばす)
環:「っ、四方から糸が!」
薺:「『簡易結界・結(ケツ)』」
榊:「っ!! その結界術は・・・、お主も退魔師かっ!!
くぅっ、おのれぇ!」(構える)
臼井:「もうやめて、榊!!」
榊:「黙れ、小娘! ふっ!」(攻撃)
千鶴:「っ!!」(目を瞑る)
環:「千鶴っ!」
(暫くして何も起きない事に疑問をもち目を開く)
臼井:「・・・?」
榊:「何故、逃げなかった。」
臼井:「榊・・・。」
榊:「先日のように、恐れて去れば良いものを。」
鎌谷:「少しはその気になってくれたのか?」
榊:「わらわは、その退魔師を殺したいだけ。
他に興味はない。だが、邪魔をするというなら話は別・・・。」
佐武:「分かりました。」
榊:「?」
佐武:「殺しても構いませんよ。」
常葉:「っ!?」
環:「えっ。」
佐武:「私たち妖怪にとっては
大変都合の良い事ですから。」
常葉:「ん〜っ!!!」
佐武:「ただし。」
榊:「・・・なんじゃ。」
佐武:「こちらの話を聞いてもらうのが、条件です。」
榊:「・・・。」
佐武:「悪い話ではないと思いますよ。
その間貴女は、力を取り戻す時間を稼げる。」
榊:「ふん、良いだろう。その条件を呑もう。
だが、わらわが納得いかぬものだったら
・・・この場にいる全員を、亡き者にする。」
佐武:「交渉成立ですね。」
臼井:「榊・・・。」
榊:「・・・。」
臼井:「何故、そんなに退魔師を恨んでいるの?」
榊:「それを知ってどうする。」
臼井:「貴女を助けたい。」
榊:「っ。」
臼井:「ずっとこの地に住んでたから、
貴女に救われた人たちを沢山見てきたわ。」
環:「あれ・・・本当は知ってる?」
臼井:「・・・うん。
嘘付いててごめんね、千十郎。
この土地に関する悪い噂は言いたくなかったの。」
環:「悪い噂?」
薺:「この土地は、厄(やく)に取り憑かれて居るんだ。」
常葉M:「こいつら一体何を言ってるんだ?
厄に憑かれてたなんて話聞いたこと無いぞ。」
環:「えっ・・・と?」
佐武:「厄、というのはこの地が生まれ持って来た
呪いだと思ってください。」
環:「は、はい。 でも、その厄と何の関係が?」
臼井:「赤子は生まれず、生まれてもスグに亡くなってしまう、
繁栄がし得ない土地だったの。」
常葉M:「・・・そんなまさか。」
環:「あのかざぐるまって、もしかして。」
鎌谷:「あぁ、その時に亡くなった童を慰めてるモノだな。」
環:「じゃ、じゃぁ!
男の僧が同じ境遇を持った妖怪を此処につれて来て、
窮地を救ったって話は・・・?」
臼井:「そう。 厄を取り込んでくれたお陰で、
子供を生むことも出来たし、村も繁栄出来たの。」
常葉M:「紫糸の八牙が常葉の領地を救った・・・?」
環:「絵巻と同じ内容だ。」
常葉:「っ!?」
鎌谷:「此処にある死体は?」
榊:「その亡骸は、わらわが自ら狩ったモノではない。」
鎌谷:「どういうことだ?」
薺:「繁栄の裏で行われていたのが、
人が自ら行った妖怪への信仰。口減らしだ。」
鎌谷:「所謂、“神隠し”というやつか。」
薺:「(頷く)」
佐武:「触らぬが祟りなし。
悪い噂が立てば人は寄り付かなくなる。
それ故、来る者拒まず、去るものは許さず。
この土地のもの全てが
見て存ぜぬを貫き通し、今を得ているのでしょう。」
榊:「そのお陰で、子を産めるまでに妖力を取り戻すことが出来たぞ。」
臼井:「今、・・・貴女は身篭っているの?」
榊:「居らぬ。」
臼井:「え?」
榊:「そこに居る、退魔師の血族に殺された!!」
常葉:「っ!」
榊:「常葉の退魔師に!
愛おしい人も、赤子も! 全て奪われた!!
だから、わらわもその退魔師を始末したまでっ、あははははっ!」
臼井:「それが封印された理由?」
榊:「くくっ、当たり前の体裁だと思わぬか。
わらわは幸せになって、子を産みたかっただけ。」
常葉M:「赤子を・・・。」
榊:「それが、禁忌だからといって問答無用で切りかかってきおった!
お主らが居なければスグにでも・・・」
薺:「ならば。」
榊:「・・・?」
薺:「それ程、退魔師が憎いのならば・・・
私を殺してくれないか。 彼女は関係ない。」
榊:「何を言って・・・」
薺:「私を覚えているか。・・・三椏。」
榊:「っ、何故その名を。」
薺:「・・・私の生前名乗っていた名は“弥一”」
榊:「っ!?」
薺:「常葉 弥一。 退魔師の本家である、常葉家五代目統領、
常葉 掩蔵(えんぞう)の嫡男にて、
六代目統領・・・だった者。」
臼井:「銀治郎が、この人の祖先?」
常葉:「んぐっ!?」
環:「あ、暴れるなって!」
常葉:「んーっ!!」
鎌谷:「・・・。」
榊:「ふっ、そんな法螺を信じろと?
そもそも、退魔師が妖怪になるなど、聞いたことが無い。」
佐武:「退魔師も人です。
少しの怨念さえあれば誰にでも成せる事。
不可思議なモノは何一つありません。」
榊:「・・・っ。」
薺:「『貴方は菊のように私を信じよと囁き
貴女は紫苑のように遠方(おちかた)にある人を想い、追憶する
永遠不変の優しき衣は羽を撫で
子は喜び歓喜を奏でる
そして、彼(か)の地に咲き乱るるは三椏(みつまた)
彼(か)の言霊は 永遠の愛を・・・。』」
榊:「その詩は・・・。」
薺:「『灯火は静寂に還り 鬼灯の実となれば木漏れ日を眺め
愛しき衣は 童の想ひと共に母を待つ』」
榊:「本当に・・・、本当に弥一様・・・なの?」
薺:「あぁ。・・・三椏。」
榊:「命を絶たれたと・・・。」
薺:「それは、君を陥れる為の偽りでしかない。」
榊:「弥一様。わらわは赤子を失いました。
退魔師に・・・貴方様の身内に殺されてしまった!」
薺:「っ。」
榊:「何故、何故このような仕打ちを
受けなければならなかったのですか!?」
薺:「すまない。」
榊:「弥一様、わらわへの愛は偽りだったのですか?」
薺:「違う。」
榊:「わらわが、妖怪だと分かって捨てたのですか!!?」
薺:「そうではない。」
榊:「では、何故です!」
薺:「私は、君の境遇も妖怪だという事も最初から知っていた。
だからこそ、救いたかった。」
榊:「今更、偽善を並べた所で・・・」
薺:「分かっている。其れは叶うことはなかった。
ただ、君を苦しめてしまっただけ・・・。
全ての元凶は常葉でも、退魔師でもない。
君を守れなかった、この私。
その憎しみは私に向けるべきモノだ。」
常葉M:「こいつ・・・。」
榊:「・・・。」
薺:「どうか、私の命で償わせてくれ。」
榊:「貴方様を殺せ、と?」
薺:「それで、許されるのならば。」
鎌谷:「お、おい・・・」
佐武:「鎌谷さん。」(静止させる)
鎌谷:「・・・っ。」
臼井:「(少し前に出る)・・・待って。」
薺:「・・・千鶴?」
臼井:「一番想ってる人の事を忘れる事の何処が幸せなの?
殺すってそういうことでしょ。」
榊:「それが何だというのだ。」
臼井:「どんなに豊かでも、不幸な人はいるし、
どんなに貧しくても幸せな人だって居るわ。
幸せを決めるのって、本人の気持ち次第なのよ。」
榊:「小娘が、分かったような口をっ!」
臼井:「分からない! 貴女の憎悪や傷みは分からない!
でも、幸せになって欲しいの。」
榊:「それでも、・・・それでも、この無念晴らさずには居れぬ。」
薺:「おみつ・・・、構わない。」
常葉M:「本気、なのか?」
榊:「・・・ならば、
その命、頂戴させて頂きます。」
薺:「(頷く)」
榊:「弥一様・・・っ。」(一瞬心苦しそうな表情になるが堪える。)
臼井:「だ、駄目っ!」
榊:「・・・はっ!!」(攻撃を仕掛ける)
臼井:「いやぁ!」(手で顔を覆う)
(薺は目を開けたまま。 榊は寸前の所で手を止める。
暫くしてその場に泣き崩れる。)
榊:「っ・・・あぁ。」
臼井:「っ。」(安心しつつも少し怒った様子)
榊:「わらわには・・・
殺すことは・・・出来ませぬ。うぅ・・。」
薺:「おみつ・・・。 許してくれ。」
臼井:「お願いだから諦めないでっ。
簡単に殺すとか、死ぬとか言わないで。
生きてれば、辛いこともいつか笑って話せる時が来る筈よ。」
(洞窟内に一つの火の玉が現われる)
常葉:「んんっ!」
環:「あれ・・・、こんな所に火の玉?」
鎌谷:「お、やっとお出ましか。」
環:「え、どういう事・・・?」
佐武:「貴方も、忠実(まめ)な男ですね。」
鎌谷:「・・・そうか?」(苦笑い)
環:「?」
臼井:「ねぇ、二人とも聞いて。」
榊:「・・・?」
薺:「千鶴?」
臼井:「貴方達の子供は生きてるわ。
姿形は違うけど、此処に居る。」
榊:「意味が分からぬ事を・・・。」
臼井:「生まれずに殺され、悲しみで
転生できなかった魂の成れの果てが・・・私。」
榊:「っ!!?」
薺:「まさか・・・。」
臼井:「銀治郎、私と出会った時のこと覚えてる?」
薺:「あ、あぁ。
あの墓石の前で倒れていたのを助けた時か。」
臼井:「うん。 最初は自分が何かも分からなかったけど
子供達(かざぐるま)が教えてくれたの。」
榊:「あ、あぁ・・・。」(信じられない)
臼井:「貴女が、私のお母さんって。」
榊:「嘘・・・。」
臼井:「本当よ。お腹から生まれたわけじゃないけど。
ほら、この子達の声を聞いて。」
環:「火の玉が集まってきた。」
榊:「そんな・・・そん、な・・うぅ。」
佐武:「常葉さん。」
常葉:「っ!」
佐武:「貴女が何をしようとしていたか、分かりましたか?」
常葉M:「・・・。
殺してはいけない、人や土地に繁栄をもたらす妖怪?
そんな存在あるはずがない。
妖怪は全てが悪、滅ぼすべき相手じゃないのか・・・。」
(榊に近づいて泣き崩れる傍で、手を添える)
臼井:「もう、何も恨まなくても、苦しまなくても良いんだよ。」
榊:「うぅ・・・。」
臼井:「だから、三人で幸せに・・・」
(遥、拍手して登場)
臼井:「えっ!?」
鎌谷:「っ?」
常葉:「んんっ!?」
遥:「うん、めでたしめでたし。」
佐武:「・・・。」
環:「だ、誰だ!?」
薺:「常葉・・・遥。」
遥:「これは、六代目様。お初にお目にかかります。
あ、いや・・・元があった方が良かったかな。」
常葉:「んぐぅっ!!」
遥:「ふっ、分かっているよ。」
佐武:「何しに来たんですか。」
遥:「・・・、大切な妹を引き取りに来たのさ。『解(かい)』」
(影千代の口に貼ってあるお札を指差して払う)
環:「あっ!」
常葉:「ぶはっ! 兄者、何故来たんですか!?」
遥:「影千代の事が少し心配になってね。
お役目をきちんと遂行出来るのか、お父上も懸念されていたよ。」
常葉:「私は、信用されてない・・・と。」
遥:「そこまでは言っていない。
初めての事だ、縁だけでは物足りないと思ったんだろう。」
常葉:「それで、兄者が?」
遥:「ふふ、本当は秀久も来たがっていたけど、
あれは影千代の事となったら遠慮がないからね、置いてきたよ。」
常葉:「くっ、・・・これは私のお役目です。一人で果たせま・・・」
遥:「(被せる)そのお役目、随分と梃子摺っているようだけど・・・。」
常葉:「こ、これからです。」
遥:「・・・(周りを見渡して)ふむ。」
鎌谷:「佐武、どうするんだ?」(ボソ)
佐武:「・・・。」
遥:「これだけ大物が揃っていては、
少し荷が重すぎたかな?」
薺:「君達の父親は何を企てているんだ。」
遥:「さて、私にも分かりません。
今回の件に関しては我々にとっても想定外のこと。」
薺:「・・・。」
遥:「全く、“内輪揉め”は大概にして欲しい所ですよ。
そう思いません?」
(佐武を見て)
佐武:「私には関係ありません、
巻き込まないで頂けますか。」
鎌谷:「・・・。」(小さく息を吐く)
遥:「ふぅん。」
常葉:「兄者、後は私が・・・」
遥:「影千代。」
常葉:「っ!」
遥:「これは、お父上からの“ご命令”だ。
その考えは余り宜しくない。」
常葉:「ま、待ってくださっ」
遥:「『影樹・斬(ようじゅ・ざん)』」
薺:「っ!」
榊:「ぎゃぁあっ!?」
(攻撃を受けて目の前で倒れている榊)
環:「榊がっ!?」
佐武:「あの術は・・・。」
臼井:「えっ・・・。」(一瞬なにが起こったか分かってない)
薺:「おみつっ・・・! しっかりするんだ!」
榊:「あ・・・かはっ・・・。
や、弥一、さ・・・ま。」
薺:「お、みつ・・・っ!」
遥:「『御・・・」
常葉:「やめ・・・」
遥:「『月夜に流るるは天の雫・・・」
常葉:「やめて下さい!!」(遥の腕を握る)
遥:「如何したんだい? 後始末はしっかりしなければ。」
常葉:「この妖怪・・・紫糸の八牙は滅してはならぬモノだと。
このままではこの土地の厄が・・・」
遥:「・・・。」
常葉:「聞いた話では、常葉の退魔師が妖怪を呼び入れたと言うではないですか。
一体どういう事です。」
遥:「それを・・・何処で聞いたんだい?」
常葉:「・・・。」
遥:「ふむ、この天狗の策略に嵌って、情でも移ったのかな?」
常葉:「ち、違います。」
遥:「ならば、使命を果たしなさい。」
常葉:「ですが。」
遥:「大事なのは人の繁栄ではない。
“悪”を滅ぼす。その宿命に従うこと。」
常葉:「っ!」
遥:「『漆黒の闇を打ちし氷牙(ひょうが)となれ・・・』」
佐武:「そこまでです。」(剣先を向けて)
遥:「っ。」
佐武:「少し、戯れが過ぎますよ。」
遥:「これは、・・・紅漆の喰蛇楼(べにうるしのくじゃやぐら)。」
常葉:「べにうるし?」
遥:「いい機会だから覚えておきなさい。
具現化した状態の式神が、その刀で切られると
二度と契りを交わせなくなってしまうからね。」
常葉:「・・・はい。」
遥:「だが、それも。此方が上手(うわて)を行けばいい話・・・」
鎌谷:「おっと、それ以上は俺も黙っちゃ居ないぜ?」
遥:「・・・ふっ、君も出てくるのかい?」
鎌谷:「・・・あぁ。」
遥:「ならば仕方ないね。 少し此方の分が悪い。 (構えを辞める)
・・・影千代。」
常葉:「・・・はい。」
遥:「この件は私からお父上に報告しておく。」
常葉:「分かり、ました。」
遥:「さて、私達はこの辺で失礼するよ。
しかし、覚えておくと良い。容赦するのは一度きりだ。」
常葉:「兄者。」
遥:「『風(しん)禮劫(らいこう)・散(さん)』」
常葉:「っ!?」
(風の渦に巻かれて二人の姿が消える
薺と臼井は榊の傍に居る。
常葉兄妹が消えると同時に鎌谷と環は駆け寄る。)
環:「消えたっ!?」
榊:「づっ。」
薺:「おみつっ!」
鎌谷:「銀治郎、榊は?」
薺:「・・・っ。」
榊:「かはっ! はぁ、はぁ・・・。
や、弥一、さ、ま。 はぁ、はぁ・・・
わら、わ・・・は・・・死ぬの、ですか。」
薺:「死なせない、死なせはしないっ!」
佐武:「しかし、あの術は妖怪の急所を突く秘術です、
早急に治療する必要があります。」
臼井:「どうしたらいいの!?」
榊:「うぐっ。」
臼井:「おか・・・さんっ。」
榊:「わらわ、を・・・母と、呼んでくれる、のか。」
臼井:「当たり前だよっ!!」
榊:「はぁ、はぁ・・・、お主・・・。」
臼井:「うぅ・・・。」
榊:「お主、名・・・は、なんと、申す。」
臼井:「千鶴・・・臼井 千鶴。」
榊:「千・・・鶴か、良い、名だ・・・。」
臼井:「おかあ・・・さん。」
榊:「がはっ。はぁ、はぁ。」
臼井:「ああぁっ! やっと・・・、やっと出会えたのに!
お母さんっ!! うわぁああぁあああっ。」(泣く)
環:「千鶴!」
臼井:「うぅっ。」
環:「さっき言ってただろ。簡単に諦めちゃ駄目だって。」
佐武:「その通りです。
流れに身を委ねなさい、何事にも流れが存在します。」
臼井:「ひっく、それ・・・銀治郎が言ってた言葉。」
薺:「佐武殿、何か助かる方法が?」
佐武:「・・・。」
鎌谷:「俺に、任せてくれないか。」
臼井:「・・・一鉄?」
佐武:「何か秘策でも?」
鎌谷:「保障は出来ないが、可能性に掛けたい。
良いか? 千鶴。」
臼井:「・・・うん。」
榊:「づっっ! あ″ぁっ!」
薺:「おみつ・・・!」
榊:「はぁ、はぁ。」
鎌谷:「榊。今、助けてやるからな。」
臼井:「一鉄、治せるの?」
鎌谷:「あぁ。
効くと良いけどな。
坊主。手を貸してくれ。」
環:「分かった!」
鎌谷:「こういう時用に貰っといて良かったぜ。」
臼井:「それは?」
鎌谷:「妖怪にだけ効く、治療札(ちりょうふ)だ。」
臼井:「ちりょうふ?」
鎌谷:「説明は後で。」
臼井:「わ、わかった。」
環:「俺は何をすれば?」
鎌谷:「周りの火の玉を成るべく此処から離してくれ。
力が弱すぎて取り込まれる。」
環:「わかった。」
榊:「ぐうっ! 弥一、様。」
薺:「気をしっかり持つんだ。きっと、助かる。」
臼井:「一鉄!」(急かす)
鎌谷:「(頷く)銀治郎、榊・・・
いや、三椏をしっかり支えてろよ。」
薺:「あぁ。」
榊:「づっ。」
鎌谷:「坊主、初めても良いか?」
環:「大丈夫!」
鎌谷:「ふぅ・・・(息を整え、札を構える)
『解呪・四季青く 天仰ぎし仙人(せんじん)の友
痛みし 身躯(くたい)を長寿の恵みにて恩恵をもたらさん』」
榊:「づっ!」
臼井:「もう少しだから、お願いっ。」
鎌谷:「『癒すはモノノフ
そなたは光風霽月(こうふうせいげつ)の如く 麗しき清乙女
煩悩を与えし御園(みその) 開花せよ 快印(かいいん)』」
榊:「うぅ・・・。はぁはぁ。」
薺:「おみつ・・・。」
環:「傷が治ってく!」
臼井:「わぁっ。」(感動の声)
榊:「はぁ・・・はぁ。」(段々と息が整っていく)
薺:「お、みつ?」
榊:「はぁ・・・はぁ。 弥一、さま。」
薺:「よかった・・・。」(優しく)
榊:「わらわ、は助かった・・・のですか。」
薺:「あぁ、助かったんだ。
助かった・・・。本当に良かった、おみつ。」(優しく抱きしめる)
榊:「弥一、さまっ。くっ・・・」(抱きしめ返すがまだ癒えきってない傷が痛む)
薺:「っ、すまない、おみつ、まだ傷が・・・。」(離れようとする)
榊:「お待ち下さい。このまま・・・このままで居させて下さいませぬか。」
薺:「しかし・・・。」
榊:「構いませぬ。
今は弥一さまとこうしていたいのです・・・。」
薺:「おみつ・・・。」(もう一度抱きしめる)
榊:「・・・弥一様。」
<数日後・家屋の外>
(鎌谷は縁側で外をぼーっと眺めているとその背後から環が現れる)
鎌谷:「はぁ。」
環:「あ、こんな所にいた。」
鎌谷:「お、坊主。様子はどうだった?」
環:「今千鶴が見てる。
大分弱ってるみたいだけど、
何事も無ければ順調に回復していくって。」
鎌谷:「そりゃ、よかった。」
環:「うん。えっと、鎌谷さん。」
鎌谷:「俺の事は、一鉄でいいぜ。」
環:「・・・分かった。」
鎌谷:「そんで?」
環:「へ?」
鎌谷:「聞きたい事があるんだろ。」
環:「うん。 榊の傷を治したあの治療札・・・」
鎌谷:「あぁ、あれか。」
環:「一鉄も元退魔師とか・・・言わないよな。」
鎌谷:「いや、流石にそれは・・・」
佐武:「(遮る)彼は、違いますよ。」
(佐武と薺が更に背後から現れる)
鎌谷:「佐武。」
佐武:「貴方からは、あれだけ大掛かりな印を組める程の霊力を感じられません。」
環:「そんなに凄い札なんですね。」
薺:「問題はどうやって手に入れたのか、だ。」
鎌谷:「あの治療符は知り合いの妖怪に貰った。」
薺:「成る程・・・。」
環:「薺さん。 もう体の方は平気なんですか?」
薺:「お陰様で完治したよ、ありがとう。」
環:「良かった。」
佐武:「さて、鎌谷さん。
今回の件で何か知っている事があれば教えて頂けませんか。」
鎌谷:「残念だが、はっきり言って俺も誰が何の目的の為に
榊の封印を解呪したのかは分からない。」
佐武:「そうですか。」
鎌谷:「だが、収穫はあったぜ?」
佐武:「なんです?」
鎌谷:「墓石の前でこんな物を拾った。」(札を取り出して見せる)
環:「治療札?」
鎌谷:「それとは別物だな。」
薺:「いつから持っていたんだ?」
鎌谷:「銀治郎と千鶴を助けに入る少し前にな。
俺も不穏な空気を感じて個人的に調べに行ってたんだよ。」
佐武:「・・・。
微かに力の余韻が残ってますね。
少々お借りしても?」
鎌谷:「あぁ。」(渡す)
佐武:「(暫く観察して)・・・これは。」
(ボッッと火になって札が消える)
環:「うわっ!? 燃えてなくなった。」
佐武:「・・・っ。(眉間にシワを寄せて)」
薺:「佐武殿、何か心当たりでも?」
佐武:「いえ・・・。」
薺:「・・・そうですか。
では一鉄はこの件に関して
一切も関係ないという事で良いのですね。」
佐武:「はい。 今の所は、ですが。」
鎌谷:「信用ないなぁ。」
佐武:「当たり前です。」
環:「でも、一体誰が何の目的で・・・?」
薺:「一つ間違えればこの地が滅ぶ所であったのも事実。
他の危険が及ぶ前に私の方でも調べてみましょう。」
佐武:「お願いします。
・・・命を知る者は巌牆(がんしょう)の下に立たずですか。」
鎌谷:「主役は高みの見物って奴か。」
佐武:「非常に不快ですね。 楽して事を成そうとしてる根性が気に入りません。」
環:「さ、佐武さん・・・。」(汗)
薺:「ともあれ、これで一件落着ですね。」
佐武:「さて、私達もそろそろ行きましょうか。
これ以上の長居は無用です。」
薺:「見送りさせてください。」
鎌谷:「それじゃ、俺も行くかな。」
環:「へ? 何処に?」
鎌谷:「お前達と一緒に。」
佐武:「断固拒否します。」
鎌谷:「少しは考えろよ。」
佐武:「嫌です。」
鎌谷:「共に困難を乗り越えた仲じゃねぇか。 今更だぜ。」
佐武:「それとこれとは話は別です。」
鎌谷:「そんなに嫌がる理由ってなんだ。」
佐武:「貴方の服の襟元にある紋様。」
鎌谷:「ん?」
佐武:「三つ盛亀甲に剣花菱(みつもりきっこうにはなびし)。
その紋を身に纏えるのは極一部。
私が知らないとでも思っていたんですか?」
鎌谷:「こ、これはだなぁ・・・!」
佐武:「貴方はまだ何かありそうですからね。」
鎌谷:「あくまで、純粋に俺個人の・・・」
佐武:「(遮る)面倒ごとは早めに避けるに越したことは無いです。」
環:「その紋って一体なんですか?」
佐武:「禁則事項です。」(ごまかすように☆ミついてもいいかも?)
環:「は、はぁ。」
(臼井が走ってくる)
臼井:「ぉおおおおいっ!!」
環:「あ、千鶴。」
臼井:「はぁはぁ。はぁ、間に合った。」
環:「あれ、看てなくて良いのか。」
臼井:「うん、大丈夫。
佐武さんと千十郎にはお世話になったし、
ちゃんと挨拶したくって。」
鎌谷:「そうか。」
臼井:「・・・って、一鉄も行っちゃうの?」(身支度している一鉄を見て)
鎌谷:「おう、一緒に行くことにした。
旅は道連れって言うだろ?」
環:「着いて来る気なんだ・・・。」
臼井:「そっか。少し寂しくなっちゃうね。」
鎌谷:「なぁに。そのうち、また遊びに来るさ。」
臼井:「本当!?」
鎌谷:「あぁ。」
臼井:「楽しみにしてるから。」
鎌谷:「(頷く)」
臼井:「えっと、佐武さん。」
佐武:「はい。」
臼井:「みんなを助けてくれて
ありがとう御座いました。」
佐武:「いえ。」
臼井:「それと、一鉄の事も宜しくお願いします。」
佐武:「・・・。」
鎌谷:「ってことだ、宜しくな。」(ニヤリ)
佐武:「はぁ。・・・好きにして下さい。」
臼井:「千十郎も。」(手を掴んで握手をする)
環:「っ!」
臼井:「諦めるなって言ってくれて、ありがとう!
とても心強かったわ。」(満面の笑み)
環:「ど、どう致しまして。」(顔を真っ赤にしながら)
臼井:「また、会えるといいね。」(満面の笑み)
環:「そ、そうだな!」
臼井:「旅のご武運を、道中気をつけて。」
環:「うん。」
佐武:「・・・銀治郎。」
薺:「はい。」
佐武:「真に恐ろしいのは、何もせずに終わる事。
何も出来ずに終わることです。余生は後悔の無いように。」
薺:「ありがとう、御座います。」
(道中を歩いていて、急に立ち止まる)
環:「・・・。」(小さく溜息)
鎌谷:「どうした、千十郎。」
環:「あ、いや。
少し、答えが見えた気がしてさ。」
鎌谷:「ん、悩み事か?」
環:「そういう訳じゃないんだけど。」
佐武:「以前、話した事ですか?」
環:「・・・はい。」
佐武:「・・・妖怪の出生とは様々な理由から起こり得る事です。
噂、怪談。悲しみや恨み。親があれば、無いものも居る。」
環:「・・・っ。」
鎌谷:「なぁに、難しい事考えてるんだ。
お前はお前らしく生きてりゃいいんじゃないか?」
佐武:「そうですよ。
他所は他所、うちはうち。
隣の芝生は青く見えるものです。」
環:「ですよね。はは。」(笑って誤魔化す)
佐武:「・・・、それよりも。」
二人:「?」
佐武:「鎌谷さん、なんで着いて来てるんですか。」
鎌谷:「え? 好きにしろって言ったよな?」
佐武:「言いました。」
鎌谷:「じゃぁ、問題ないだ・・・」
佐武:「着いて来て良いとは言ってません。」
鎌谷:「・・・なんだそりゃ!」(呆れ)
環:「うわっ、相変わらず理不尽だなぁ・・・。」
女:「『灯火は静寂に還り 鬼灯の実となれば木漏れ日を眺め
愛しき衣は 童の想ひと共に母を待つ
流るる悠久の彼方に辿り着きし孤独は
無数の羽が奏でし詩に包まれ 刻を待ちわびる
再び出会いし鴛鴦(おしどり)は 三椏咲き乱るる彼の地に
絆と共に繁栄を祈る
厄は過ぎ去り 安き風は流浪の元に流れ行く』」
〜 〜£終わり£〜 〜
〔コメント〕
長編和風ファンタジー
〔こよひ逢ふ人みなうつくしき〕 を
演じ、読み、聞いて下さりありがとう御座います。
如何でしたでしょうか?
私の世界観が少しでも皆様に届ければと一生懸命に
筆を取らせていただきました。
そして、この作品を通して
皆様に様々なご縁がありますようお祈り申します。
全ての物語が、あなたの心に届きますように。
作者:櫻庭 樹
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